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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 52-5

ゼザ「それだけじゃない。本当の魔法の使い手でもあり、剣の使い手でもあった。敵軍からは黒き死の狩人と恐れられていた」
 
 “彼女”は命を狩る。
 通った戦場の全ての命を刈り尽くさねば済まさない、鋼鉄の魔女。
 そう、恐れの噂は広がった。
 
ゼザ「……断っておくが、伝説じゃない。ごくごく最近の話だぞ、これは」
ジャック「戦の天才か」
ゼザ「そうだ。ナロゥ・ペタ側では黒の戦乙女と呼ばれて大変な人気だった。しかも魔女で剣士。これだけの材料を持った女が他にいるか? 彼女こそは13番目の魔女だ」
ジャック「しかし何百年も前の……本当にいたかもわからない魔女と結び付けるのはどうかと」
ゼザ「実際に彼女はシレネの生まれ変わりとして、死刑宣告されている」
ジャック「処刑? 敵に捕らわれたのか?」
ゼザ「いや。人間離れした圧倒的な強さにナロゥ・ペタ側が恐ろしくなったのさ。彼女が国を乗っ取るつもりでいるんじゃないかとな」
 

▽つづきはこちら

 強敵ハトの侵略から国を救った英雄である彼女の国民的人気は王を凌ぐほど。
 国民の、新王への忠誠心も聖少女と称えられた彼女が傍らにいてこそだった。
 それを理由なく処刑したとあっては、国民が黙っていない。
 だからあらゆる疑惑を押し付け、シレネの名を着せて処刑されることとなったのだ。
 
ゼザ「ところがだ」
ジャック「彼女は死ななかった」
ゼザ「そう。逆にあの国を滅ぼしていずこかへ姿を消した。それ以来、風の噂にもない」
ジャック「確かに戦慄する話ではあるが……」
ゼザ「信じないのか、これほどでも」
ジャック「…………」
 
 強く推されて、ジャックは黙った。
 
ゼザ「国の命運をいともたやすく左右できる力を人間が持ち得ると思うか?」
ジャック「…………」
ゼザ「シレネは何年経っても美しい少女のままだったというし、邪竜だったっていう説も残ってる」
ジャック「もし本当なら13番目の魔女は………裏切りを受け続けたことになるな」
 
「そうともさ。だから、奴は仕返しにくる!!」
 
 唐突に叫んだのは、ゼザではなく、その父親だった。
 来客に詰め寄り、黄色い歯を見せて不気味に笑った。
 
父「13番目が来る! この国はおーしまいぃ~」
ゼザ「オヤジ! あっち言ってろ」
父「13番目の名を気安く連呼するな、お前らァ。来るぞ来るぞ来るぞぉ~っ! 13番目の魔女が、名前を呼ぶとやって来る~っ!!」
 
 酒臭い息をはき散らしながら顔がずんずん迫ってきて、ジャックは背を反らして襲撃を逃れた。
黒目がちの瞳が驚きに見開かれる。
 
ジャック「お、おじ様は……大丈夫なのか?」
ゼザ「悪いな。いつもこんな調子なんだ」
 
 肩をすくめる。
 
ジャック「話を聞かれてマズかったのでは?」
ゼザ「いいんだ。こんなオヤジが何をわめこうと誰も信用しやしねぇし、5分後には今あったことも忘れちまう。……ぶっ壊れてんだよ」
ジャック「……そうか………うっ!?」
 
 あんまり近づかれて、結局、ソファーの上に転がってしまったジャックの上に黄金の液体が降り注いだ。
 
ジャック「!?」
ゼザ「……あったぁ~」
 
 ぴしゃりと自分の顔に手を当てる。
 
父「ひぇっひぇっひぇっ!」
 
 悪戯した子供のようにはしゃいで跳びはねる父親は、なんと、下半身を露にして他人の顔面目がけて小便を引っかけたのである。
 
ジャック「……………………………………………………」 ぼーぜん。
ゼザ「………………悪い………イカレてんだ………」
 
 さすがに悪いと思ったのか、ゼザはため息交じりに謝罪した。
 
ジャック「……いや……平気……………だ」
 
 半ば唖然としたままのジャックにゼザの父親は得意げにまくしたてる。
 
父「思い知ったか、小伜! 13番目の名をこの家で口にするからだぁ~」
ゼザ「あっち行ってろっつったろ、このクサレ野郎が!!」
父「ヒィッ!?」
 
 とうとう立ち上がって丸太のような腕を振り上げる。
 
ジャック「待て! 大事ない。父親を殴ったらダメだ、ゼザ」
 
 飛び起きて手首をつかむ。
 
ゼザ「いいんだよ。こんなのぁ父親でも何でもねぇ。甘やかすと付け上がる」
ジャック「でも良くない。今はこうでも、ちゃんとした治療を受けさせればきっと回復する」
ゼザ「いいやダメだね! コイツは壊れる前から壊れてた。酒をかっくらって母様を殴るのだけが生きがいの男だった。だから俺が殴ってもとんとんだ」
ジャック「私に免じてここはこらえて欲しい」
ゼザ「……なんでションベンまみれのアンタに免じなきゃなんねーんだか…………ちっ、もういい。さっさと洗ってこい。汚いなりしてねぇで」
 
 怒りを抑えてどっかとソファーに座り直す。
 
ジャック「ありがとう」
ゼザ「浴室は廊下突き当たり、右。服は俺のを勝手に出して着てくれ。アンタにゃ合わないだろうがな」
ジャック「感謝する」

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