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レイディ・メイディ 46―2
2008.07.01 |Category …レイメイ 46-48話
訓練を実施している最中も氷鎖女は、視線を感じていた。
ムカデの魔物と戦ったときと同じ種類のモノだ。
しかも全体ではなく、リクを追っているときに限り。
氷鎖女『リクか? 狙われておるは……』
最後にリクと争った現場で、氷鎖女は蛙をクナイで串刺しにしていた。
以前、森の中央で仕留めたクナイは、後日確認してみるとヤモリを貫いて木の幹に深々と刺さっていた。
ヤモリにカエル。だから、気配が小さかったのだ。
使い魔を使用して、誰かが見ている。
それも訓練のたびに毎日。
……誰が何の目的で?
氷鎖女「次はひとつ……仕掛けてみよか」
クナイを引き抜いて、汚れをふき取る。
やがて生徒たちが迎えに来たので、何もなかった風を装って合流した。
氷鎖女『リクが狙われるとしたら…………可能性は……』
『……………食い逃げ……かな?』
▽つづきはこちら
所変わって、エグランタイン公国・エグランタイン城。
ダンラック「ふーむ。日の王子はなかなかに強い。あの程度の魔物では簡単に倒されてしまいましゅねぇ」
ワイングラスを片手に持ったダンラック公爵は、豊かな脂肪で覆われた巨体を揺すって悲鳴を上げる椅子から立ち上がった。
ダンラック「あの紅い瞳、黒く艶めく黒髪……長くしなやかな肢体……傷をつけずにどうにか手に入れたいものです」
窓辺に置かれた花瓶の紅い薔薇をむしって口に入れる。
ダンラック「しかしあの黒ずくめの仮面は何者ですか? まったく邪魔です」
窓の外に広がる庭園を見つめながら、背後に控える部下に問う。
部下「シズカ=ヒサメ。黒薔薇の教官でございます」
ダンラック「シズカ=ヒサメ……あれは……女……?」
部下「いいえ。小柄ですが、男のようです」
ダンラック「男? ……ほーう。そうでしゅか。気のせいでしたかねぇ。魔力の質が女性のように感じたのですが……」
「まぁよろしい。シズカ=ヒサメについて調べて下さい。早急に」
この数日後。
公爵をおおいに怒らせる事件が起こる。
血飛沫が舞った。
それは絨毯の上に降りかかり、黒い染みを残して吸い込まれてゆく。
部下「公爵様!」
ダンラック「魔法を……返して来ましたね、仮面の男……」
使い魔の眼を通して水晶に映し出された黒ずくめの男が薄く笑う。
それを最後に映像はとぎれた。
ダンラックの右腕が弾け飛んで、形も分からないほど細かく千切れた肉片がテーブルに飾られた白い薔薇を赤く染め上げた。
明かにこちらに対する挑発である。
部下「正体を見破られたのでしょうか?」
ダンラック「まだそこまで嗅ぎ付けてはいないでしょう。使い魔と私の魔力の接点はわずかです。……そのわずかな繋がりを伝って仕掛けてきたのは、さすがですがですねぇ」
肩まで弾けて目茶苦茶になってしまった傷口に臣下の者が包帯を巻こうとするのを制止する。
ダンラック「いりませんよ」
傷口は臣下の目の前で沸騰した湯のように泡立ち、やがて元の腕へと再生してゆく。
部下「………………」
生唾を飲み込んで、目をそらす。
ダンラック「よろしい。実に面白いではありませんか。この私のセクスィーなボデーに傷をつけてくれちゃったのれす。それ相応のお返しをしてあげないといけません。……そうですね?」
部下「ハ、ごもっともで……」
ダンラック「……あの者、身内は?」
部下「そ、それが、異国からの流れ者にてどうもその辺りはわかりかねす」
ダンラック「異国からの流れ者? ……分かったことだけでよろしい。報告をなさい」
部下「シズカ=ヒサメ。年齢20。男性。東の国より流れて来た黒の魔法使い。女王直々の推薦で養成所の教官になったようです。それまでは画家として細々生計を立てていたようですが、詳しいことは一切不明です」
調べ上げた少ない情報を読み上げる。
ダンラック「女王が送り込んだ…………そうですか」
「無意味に外国人を呼び寄せるとも思いませんねぇ。彼には何かあるのかもしれません」
部下「はい」
ダンラック「お身内がいないというのは、少々残念ですが……。まぁいずれ、この世で最も残酷な死を賜ってあげましょう。私をおちょくってくれたお返しにねぇ。フォッフォッフォッ」
笑顔を張り付かせたまま、表面にいくつもの筋が浮かび上がり、紅潮する。
部下が恐怖に震えるその前でダンラックは吠えた。獣のように。
再生された腕を力の限り振るって打ち付け、肉と骨を破壊しながら石作りの壁を崩す。
咆哮は窓ガラスを割り、部屋に飾られた装飾品にひびを入れてようやく制止した。
彼の怒りを収めるためにこれから美男美女数名の命が犠牲となるのである。