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レイディ・メイディ 44-2
2008.06.26 |Category …レイメイ 43ー45話
そこまで考えて、突然、プッと噴出す。
氷鎖女『クロエ姫! ……似合わぬ。これほど姫君の名が似合わぬ娘が他におろうか!? だって、妄想狂いのイジメッコ。姫君は可憐で優しく淑やかで、忍者を人種差別して捕獲しようと追い回したりしないと相場は決まっておるのだから!!』
「うん、気のせい、気のせい。……あ」
今来た道を振り返り、ゴミ箱に目を留める。
氷鎖女「いかぬ。感謝状、メモ用紙にはなったか。いい紙だったし、もったいなかったかな?」
戻ってゴミ箱に手を突っ込もうとすると、背後から両手首を押えられてしまった。
氷鎖女「お」
振り返れば、通達されていたという生徒たちではないか。
▽つづきはこちら
フェイト「お、じゃない」
両腕をつかんで上に上げさせたのは青薔薇見習いのフェイト。
フェイト「一度捨てたものを拾うのやめろよ、先生のクセに」
氷鎖女「………………」 しょぼーん……。
レク「なんかどっかで見たような場面」
リク「デジャヴを感じるね」
クレス「ハァ。僕たち以外の生徒にそういう真似してるの見つからないで欲しいよ。そうでなくてもヒサメクラスの生徒ってだけで何やかんや笑われてるんだから」
氷鎖女「……う」
フェイト「ゴミ箱は漁らない。……いいか?」
氷鎖女が何度かうなずいて、ようやく開放してやる。
レク「行こう、先生構ってないで」
所長室の扉をノックする4人の男子生徒の後に少し送れてメイディアを連れ立ったレイオットが訪れる。
それを最後に見届けて氷鎖女はその場から立ち去った。
所長室に呼び出された6名がそろい、褒め言葉と共に一人一人に手渡される書状。
受け取って部屋を出ると各々、自分の専攻した教室に向かいながら感想を口にする。
レク「うわぁ。別に感謝されたくてじゃないけど、こういうのもらうとちょっとくすぐったいね」
レイオット「そうね。やっぱりちょっと嬉しいかな」
クレス「こんな紙切れもらったって仕方ないじゃん。何を浮かれてんのさ」
リク「クレスは嬉しくないのかい?」
クレス「ま、まぁ、くれるっていうんならもらっておいてやるけどねっ!」
リク「あはは、素直じゃないなぁ」
5人が明るく会話に興じているのに、暗雲を背負った2人が空気を重くしている。
フェイト「………………」
メイディア「………………」
リク「はは……」
レク「あははは……」
レイオット「はは……」
レク・レイオット『くっ……空気がぁぁ~!!』
クレス「じゃ……僕はこっちだから」
黒薔薇クラスの方向に向かう。
リク「あ、俺もだ。メイディのクラスも座学でしょ?」
メイディア「え? ええ」
レイオット「わ、私たちは外だから……ホラ、フェイト」
フェイト「あ、ああ」
剣士組と別れた魔術師組の3人。教室の手前でまた2つに別れる。
元は同じクラスだったが、今はメイディアが別のクラスなのだ。
新しく編入したクラスの教室に踏み込んで、隅の席にそっと腰を下ろす。
居心地悪い場所にひっそりと隠れるようにして。
やがて所長室にいた担任のレヴィアスも戻り、授業が開始される。
けれど内容は一向に頭に入ってきてくれなかった。
代わりに思考を占領するのは、今度の事件のことばかり。
事件そのものよりも、自分の愚かな行動とレクの言葉でハッキリさせられてしまった、秘めた想いの結末である。
メイディア『……関係ないわ……ワタクシはどうせ……』
嫁ぎ先など決まっているのだから。
気持ちを切り替える意味でも、次の授業が実践でよかったと感謝する。
魔法に打ち込めば嫌でも落ち込んでいる暇などないと期待したのである。
ところが。
メイディア「やだ……まだ魔法が撃てない?」
『どうしよう……? そ、そうだわ。こんなときこそ、先生に』
「レヴィアス先生、ワタクシ、その……」
魔法が発動しない事情を聞き、
レヴィアス「ふむ。少し疲れているのでしょう」
尖ったアゴをなでてレヴィアスはもっともらしくうなずいた。
メイディア「いいえ、疲れてなどおりませんわ。ちゃんと昨日は1日休みましたし……それに……」
レヴィアス「日曜の事件から緊張続きだったからねぇ。活躍は見事だ。私も君の担当として鼻が高い。君はもっと自信を持っていいのだよ?」
メイディア「ありがとうございます、でも、あの……」
レヴィアス「いや、いいんだ。今日は休みなさい。神経が昂っているのです」
メイディア「そ、そうでしょうか……」
その日は結局、実践授業をあきらめて一人、座学に戻る。
「メイディアは大丈夫かな?」ペンを指で回しながら、ヒサメクラスのリクが誰に言うとでもなく漏らした。
独り言のつもりだったのに、隣の席のクレスが応じてきた。
クレス「だいぶ、まいってるよね。僕には関係ないけど、フェイトと何かあったのかな」
リク「俺にも関係ないけど、クレスは鋭いね」
クレス「そりゃあ、二人して口数減ればね」
特にあのうるさいメイディアが黙っているのは、珍しいにも程がある。
クレス「あれ? するってーと、もしかしてメイディアの好きなヤツって……フェイト?!」
今更に気がついて大声を出しそうになり、口に手を当てる。
リク「さぁ、俺の口からは何とも」
クレス「言ったようなモンじゃん! 信じらんない。仲悪いようにしか見えなかったし……それに、似合わないって」
リク「そうかな……割とイケてると思ったけど」
クレス「お前は?」
リク「は?」
クレス「お前はいいの?」
リク「なんで俺?」
深紅の瞳を瞬かせて少し驚いた表情を作る。
クレス「だって…………ま、いいんなら、別に構わないけど。僕は関係ないし」
リク「うん、俺も関係ないよ」
クレス「なんだ、僕の思い違いか」
リク「何が」
クレス「別に」
それ以上は答えてくれず、クレスはノートを無心に写し始めてリクの方を向くことはなかった。