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レイディ・メイディ 43-5
2008.06.26 |Category …レイメイ 43ー45話
アン「だけど、レイ様とかリク君とかに可愛がられてる! あのクレス君だって、メイディには優しいし」
モーリー「……そうだったっけ??」
アン「ヒサメ先生だって、親しくニックネームで呼んじゃって……」
モーリー「でもあの先生の“ゴールデン”って要するにウンコのことなんでしょ? そう呼ばれたいの?」
アン「ち、違うけどっ! ……や、やっぱヒサメ先生はいいか、どうでも……。そ、それにっ、それに、レク君もクロエもメイディをすぐかばう!! 悪い子なのに守られて……私は地味だから、皆に振り向いてもらえない。そんなの不公平よ!!」
当時、ローゼリッタにかかわらず、西の大陸の国々では金髪が特にもてはやされる傾向にあった。
奇麗な金髪は美人の要素に含まれており、若い女性にとって一種の憧れなのだ。
この流行は貴族から始まり、平民の間でも浸透している常識であった。
鼻が高い、色白、長身細身、金髪……貴族的美人の要素にどれひとつとして当てはまらないアンはいつも嘆いている。
決して不美人ではないのだが、器量よしでもない。
恋した相手が絶世の美少年であればなおのこと、悩みは深くなるばかりだった。
▽つづきはこちら
モーリー「その人たちがメイディに優しいのは、ハデだからじゃなくて、バカが目に余るからよ。気にすることでもないとおもうけどなー」
アン「モーリーは放っておいても人気があるからそんな呑気していられるんだわ」
モーリー「アタシだって特別美人じゃないよ? 金髪じゃないし。太りやすい体質だし。愛嬌はあるとは思うけど。タヌキ顔ってやつね」
アン「でもモーリーは人気あるもん! 日曜だって放課後だって、いつも予定で埋まってる! いつも誰かのついでで、クラスにいたって忘れ去られてるような存在の、私の気持ちなんかわかんないよっ!!」
モーリー「誰かのついでだなんて思ってないわよ」
アン「嘘っ!!」
「……私はいつだって“も”なのよ!!」
モーリー「モ?」
アン「アン“も”来ない? アン“も”遊ぼうよ。いつだって最初に名を呼ばれることなんてないわ!!」
モーリー「“も”って……でも、呼ばれるだけいいじゃない。呼ばれない子だっているんだから。好かれてる証拠だよ。……少なくとも嫌われてはいないね、うん。だいたい、モなんて……そんなの、呼ぶ方だって分けて呼んでるつもりないと思うけどナー」
アン「そうよ。つもりはないのよ。自然に、アンは“も”なの」
モーリー「考え過ぎだってばー。誰だってモで呼ばれることなんてフツーにあるよぉ。アンだけじゃないって」
アン「モーリーになんか……わかんない……」
興奮のせいか、アンはいつしか大粒の涙をこぼしていた。
周りが考えているよりも、彼女のコンプレックスは強いらしい。
モーリー『つまり……』
モーリーは思った。
彼女は目立ちたいのだと。
目立つ人たちに目をかけられて、注目を浴びたいのだ。
けれどそれが叶わなくて、憧れのポジションにいる自分でない女の子の全てが羨ましく、そして妬ましいのだ。
特別な存在になりたい。
それは多かれ少なかれ、誰もが持つ願望だけれど、彼女の場合はそれが少しばかり強いのかもしれなかった。
モーリー『アタシとジェーンが側にいるだけじゃ、物足りないのかな』
モーリーから見て、アンは充分に魅力的な女の子だ。
まだそれの活かし方がわかっていないだけで。
けれどそこも純朴で良いと思っている。
ぜひとも幸せになって欲しい友達なのだ。
こんなに真面目で純粋な少女が幸せになれないはずがない。
他人の持ち物だけを見て良い物だと思わずに、自分の持ち物をひとつ見返してみて欲しい。
ガラクタだと思っていた物が急に味のある物に見えてくることも、ままあることだから。
そうは思ったが、今の彼女に説いたところで聞き入れないだろう。
ここは一歩引くことにした。
モーリー「わかった、わかった、わかんないです、モーリーにはワカリマセン」
アン「うっく……ぐすっ」
鼻をすすりあげて、あふれ出る涙を腕でふき取る。
モーリー「……でもさーあ? アタシはね。個人的にだよ? アンにこういう下手な立ち回りして欲しくないんだ」
アン「……それは……謝る……迷惑までかけちゃって……」
モーリー「画策とかそういうのはねぇ、シラーとか、アタシとか……ドブネズミのすることなんだよ」
アン「……モーリー?」
モーリー「アンはやっちゃダメ。アンタはキレイな夢を見ていればいいの。好きなだけ、好きな夢を」
きらきらと木漏れ日の差す、温かくて優しい、少女時代の淡い夢。
それは恋に恋する少女の特権。
そこにはこの世の汚い部分とは遠くかけ離れた、可憐で美しいものだけが存在できる世界。
モーリー「その夢が覚めてしまうまでね」
アン「どういう……意味?」
モーリー「アタシは、早く小説の続きが読みたいなー♪」
アン「しょ、小説……?」
モーリー「アンジーとリカルドだっけ? その二人が早くくっつけばいいなぁってジェーンといつも話すんだ」
小説とは、アンが密かに執筆している、モーリーとジェーンだけが読むことを許されている恋物語だ。
ヒロインのモデルはアン自身。
相手の王子役は異国の血を引く紅い瞳の……
アン「ありがと、モーリー……。でも、二人の恋は………成就しないよ……」
肩を落とす。
モーリー「ダメよーぅ、そんなのー。読者は二人が幸せになるのを見届ける義務があるんだから」
アン「でも……アンジーにはそんな魅力がないの……」
泣いて赤くなった鼻をハンカチで隠して、また鼻をすする。
モーリー「リカルドは気づいてくれるってー。彼は人の本質を見抜く紅い目を持ってるのよ。金髪だろーがお嬢様だろーが、表面上なんて関係ないってきっと言うわ。ヒロインがどんなに埋没してても、泥の中からすくい上げてくれる。……でしょ?」
アン「……うん」
モーリー「ホラ。だーいじょおぶ。物語はハッピーエンドに決まってるってぇ♪」
ようやく笑顔が戻った年下の友人の頭を軽くなでた。
泥の中に埋もれた宝石の原石に気づいて、誰かが掬い出してくれる。
そんな夢を売り娘だったモーリーはアンの小説の中に見いだしていた。
モーリー『アタシは宝石の原石なんて高級なモンじゃなくて、ガラス玉だけれど……宝石だって勘違いしてくれる人もいるかもしれないわ。ひょっとしたら、中には宝石より硝子玉の方がキレイに見える特殊な人だっているかもしれないし。あなたが思うより、世の中って割りと気楽なものよ、アン。……きっとね』