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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 43-6

 階段を降りると丁度、シラーが取り巻きを引き連れて食堂に向かうところであった。

 現実に引き戻されたアンはモーリーの背中にそっと移動する。

 後ろめたさが彼女に行動を取らせ、シラーの鋭い眼差しに不信感を与えた。

 

シラーの取り巻き「アンも一緒に行くー? 食事」

アン「…えっと…」

 

 後からジェーンが走ってきて、

 

ジェーン「あ、いたいた、こんなトコにぃ。探したのよ」

アン「ジェーン…」

ジェーン「二人で出掛けちゃってヒッドーイ。置いて行かなくてもいいのにー」

アン「お、置いてったワケじゃ」

ジェーン「あははっ。ウソよ。そんなにあわてなくてもわかってるから」

アン「……あ、うん。あは……」

取り巻き「どうするの、早く決めてよ。行っちゃうからね」

 

 先に声をかけたのに後から来たジェーンと会話を始めてしまったアンに苛立ちをぶつける。

 

アン「…………」

ジェーン「ご飯食べるでしょ、アン」

アン「………うん、行こう。…………ジェーン」

 

 アンは自分を、アン=ブラウンを探しに来てくれた、ジェーンを選んだ。


▽つづきはこちら

 

取り巻き「じゃ、私たちとは行かないワケね?」

アン「……ごめんね」

 

 しばらく反・メイディアを掲げる連中と親しくして、モーリーやジェーンと疎遠になっていたが、また元の鞘に戻ることにしたのだった。

 

取り巻き「ま、いいけど。それじゃ、シラー様、行きましょう」

モーリー「待って。アタシ、シラーに用事があんのぉ」

取り巻き「後にしなさいよ」

モーリー「シラー?」

 

 取り巻きたちを無視して、シラーに返答を求める。

 意味ありげな視線を送って。

 

シラー「……いいわ。私は後から行く。先に行ってて」

取り巻き「は、はい」

モーリー「二人も先に食べててー? あ、Cランチ大盛りとっといてちょうだいよ」

アン「……また体重増えたって、こないだ言ってたのに……」

ジェーン「おなかのお肉つまみ放題じゃないよ、最近」

 

 二人の容赦ないツッコミがモーリーのちょっぴり増え気味の体脂肪を直撃。

 

モーリー「ジェーンがあんまり食べない分、代わりにアタシがね~♪」

ジェーン「関係ないから、ソレ」

アン「ふふっ」

  『やっぱり、二人といる方が楽しい』

 

 友人たちとそれぞれ別れて、廊下の端に寄るシラーとモーリー。

 

モーリー「手を出してー?」

シラー「……ナメクジとか置くんじゃないでしょうね?」

モーリー「まーさか。そんなメイディみたいなマネしないわよ」

シラー「………」

 

 疑いながらも右手を開く。

 

モーリー「じゃんじゃじゃーん☆ ハイ、コレー♪」

 

 乗せられたのは、失せ物だったペンダントだ。

 

シラー「……やっぱり……」

モーリー「なんでやっぱり? もっと驚かないの?」

シラー「アンが盗ったとはね。さすがに想像もしなかったわ」

モーリー「違うわよぅ。苦労して苦労~っ、してっ、見つけたんじゃなーい。ご褒美ちょーうだい♪」

シラー「空々しい演技はやめて」

 

 ぴしゃりとはねつける。

 

モーリー「……ちぇー。いつわかったのぉ?」

 

 素直に負けを認めて肩をすくめる。

 

シラー「アンがアナタの後ろに隠れたでしょ。……私と目が合った瞬間に」

モーリー「そだっけぇ?」

シラー「その前からわかってたけどね。あのおとなしい子が急に周りの波に乗るなんて。後ろめたいことがあるから、覆い隠そうとしてるのがバレバレなのよ」

モーリー「さーすが、シラー様っ♪」

シラー「わざとらしいおべっかはいらないわ」

モーリー「いやーん、怒ってるぅー」

シラー「当たり前でしょ!」

モーリー「ま、戻ってきたんだからいいとして、鞘に収めてちょうだいよ」

シラー「ふざけないで。よくもやってくれたわね、あの田舎娘。私の物に手をかけるなんて身の程をわきまえて欲しいわ」

 

 ヘラヘラとゆるく笑うモーリーと対照的に、シラーは棘のある表情だ。

 怒るのも無理はないのだが。

 

モーリー「……地が出てるー」

シラー「うるさいっ」

モーリー「うーん、そんな怒るくらいなら、あんまりアンにかかわらないでやってよー」

シラー「何が?」

モーリー「今回のことだって、シラーたちがあんましけしかけるから思い詰めてああなっちゃったんだしぃ」

シラー「なーによ、それ? 人のせいにしないで」

モーリー「だぁってぇー。アンは本来、おとなしくて引っ込み思案。オマケに主体性がないから、流されまくり。そんな子が一人であんな大胆な行動とれるはずないじゃない」

シラー「私が指示したっていうの?」

モーリー「そうは言ってないけどぉー、メイディを陥れるよう仕掛けたのは……」

 

 ちらりとシラーに視線を滑らせる。

 

シラー「言い掛かりはやめてよね。人聞き悪い」

モーリー「でもメイディを追い落として一番得するのはシラーだよねぇ?」

シラー「……何が言いたいのよ」

 

 むっとして睨みつけてくるシラーに、にっこりと人懐っこい微笑で返す。

 

モーリー「アンが成功しても失敗しても、シラーには害が及ばナーイ」

シラー「……………」

モーリー「アンはさぁ。思い込みが激しいから。そっとしておいてあげてくんない? 波風立てなければ、それなりに上手くやってけるの。余計な手だし、必要ないから」

シラー「いいわ。別に。アンなんかいてもいなくてもどうでもいいんだから」

モーリー「でしょ? よかった。シラーが物分かりがよくて。そうでないと………」

シラー「な、何よ!?」

モーリー「うーうん」

シラー「ちょっ……ニヤニヤしないで、気持ち悪い! ハッキリ言ったら?」

モーリー「だから、なんでもないって。……あ。おなか鳴っちゃった。ご飯ご飯♪」

 

 話を打ち切って食堂の方へ駆けて行く。

 

シラー「何よ……あの子……。敵に回すつもり? ……この私を」

 

 アンの背後にはモーリーが控えていると釘を刺されたシラーは直感的に感じ取っていた。

 一見、トボケて冴えないあの女を相手どってはならないと。

 シラーの性格と強固な立場をわかってあの物言いをしてきたということは、自信があるのだ。

 牙城を崩せる自信が。

 

シラー『……でも大丈夫。あの手のタイプは、自分のテリトリーさえ侵されなければ、外で何が起ころうと知ったこっちゃないっていうスタンスだから。アンなんか別にいいしね。ちょうど渡りに船だっただけのこと……』

 

 その後、グループを抜けたアンは、取り巻き連中に悪く言われることもあったが、シラーが優しく間に入って取り持ってくれ、摩擦は最小限に抑えられた。

 予想通り、モーリーの親しい友人に害を加えない限り、相手から特別接触してくることはなかったのである。

 守られていた本人アンですら知らない、水面下での戦いは、モーリーに軍配が上がった。

 この養成所でシラーブーケを完敗に追い込んだのは、何をさせても平均よりやや下回る成績の娼婦あがりの娘ただ一人であることは表沙汰にならないお話である。

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