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レイディ・メイディ 43-2
2008.06.24 |Category …レイメイ 43ー45話
メイディア「?」
教室の空気が変わったことに気が付いたメイディアは、予習のため開いていた教科書から顔を上げた。
取り巻き「返しなさいよ!」
シラーを取り巻く太鼓持ちの女の子たちが詰め寄った。
……元は、メイディアの周囲にはべっていた連中である。
メイディア「? 話が読めませんが、何です、薮から棒に」
取り巻き「トボけないで。シラー様のペンダントよ!」
男子生徒たち「やっぱなー。俺、あの女が怪しいって思ってたんだよ」
「シラーが困って喜ぶのは、あの女しかいないからな」
男子の一部も混ざって悪し様に騒ぎ立てた。
▽つづきはこちら
メイディア「??」
アン『言ってやった…! 言ってやったわ……』
自分の一言で状況が一転した!
場面を転換させる大きな影響力を持った台詞を放った興奮に、こわばった勝利の笑みを微かに浮かべた。
そんな彼女の横顔を観察しているのはモーリー。
周りの様子から大まかな事情を悟ったメイディアはたちまち呆れ顔。
メイディア「ワタクシをお疑いに?」
取り巻き「証人がいるんですからね! ねぇ、アン?」
アン「!」
水を向けられて、はっとなる。
メイディアからの真っすぐに向けられた視線に、思わず目をそらした。
アン「そ、そうよ」
メイディア「ではアンの見間違いです」
アンから目を離し、
メイディア「ワタクシが、シラーの持ち物を盗る? ……ふん、冗談はおやめになって。ワタクシ、そのようなはしたない真似は致しません。特に、シラーの持ち物に触れるなど、考えただけでぞっとしませんわ」
シラー「………………」
取り巻き「ヒッドーイ! 聞きました、今の!」
シラー「……メイディア様が私をお嫌いなのはわかりますけど……母の形見だけは許して下さい」
シラーがわっと泣き出すと、取り巻きたちが勢いづく。
取巻き「だったら持ち物を見せていただいても構いませんわよね、メイディア様?」
メイディアの席の周りをずらりと囲む。
メイディア「ワタクシの物に触らないで下さる? 貴女がたに見せて差し上げる物など、一つも持ち合わせていないのですけど」
取巻き「潔白なら! 見せられるはずよ!!」
ヒステリックに机を両手で叩く。
メイディア「ないものはないのです。他を当たって下さいな。ワタクシでないのは確かですからご心配なく」
我関せず。再び教科書を手に取る。
女子生徒「ねぇ、脱がして確かめれば嘘かどうかわかるんじゃなーい?」
男子生徒「お、いいね、それ♪」
一人が言うと囃し立てる口笛が飛んで、教室全体が色めき立った。
メイディア「………………」
鋭く睨みつけるといたずらに提案した女子生徒がひるんだ。
女子生徒「な、何よ、その目は。あっ、謝りなさいよ、シラーに」
メイディア「とっていないのに?」
女子生徒たち「泣かせちゃって、可哀想じゃないの!」
「泣かないで、シラー。取り返してあげるからね」
口々に慰めの言葉をかけ、同時にメイディアを責め立てた。
女子生徒「盗ってないなら見せなさいよ!」
メイディア「もう。煩わしい方々。まるで蝿ね」
女子生徒「何ですって!?」
メイディア「見てわかるでしょう、筆記具とノートに教科書。それ以上は持っていません」
女子生徒「でもちゃーんとアンが見てるんですからね! 犯人はアンタよ!! シラーに謝れ!!」
「そうよ、お母さんの形見をとるなんて最低だわ!!」
男子生徒「土下座だ、土下座」
土下座コールが巻き起こった教室のドアが再び開いたが、今度は誰も気づかなかった。
悪ふざけがエスカレートして、メイディアを椅子から引きずり下ろし、床に押さえ付けた行為で室内は興奮のるつぼとなっていたのである。
リク「………………」
クレス「ナニ……コレ?」
カイル「つるし上げか?」
いや、ただ一人だけ。
入って来たのがリクやクレスであることに気づいた人間がいた。
アン『! リク君……』
姿を認めると急に強気になってアンは口を開いた。
このときのために用意していた言葉を。
アン「盗ったのは……、盗んだのはメイディよ! 私のノートだって盗まれたんだから!! 皆、この子は信用しちゃダメ!!」
『見て! リク君! この子はこういう子なのっ!』
生徒たち「土・下・座、土・下・座!!」
自らの言葉によって白熱に輪がかかるさまがアンを酔わせた。
自分の言葉で皆が動いている。
皆が私を注目している!
自分しか知らない事実に皆が賛同してくれている!!
床に座らせられて土下座のポーズをさせられそうになっているメイディアを彼の人の紅い双眸にはどう映るだろうか。
普段の颯爽たるお嬢様の姿はそこになく、惨めな容疑者がそこにいる。
カチューシャは落ちて、金色の髪は振り乱れ、お澄まし顔も台なしだ。
きっと幻滅するに決まっている。
注目されたい、特別でありたい願望が強いアンは今、得意の絶頂であった。
誤った方向に。