HOME ≫ Entry no.702 「レイディ・メイディ 第44話」 ≫ [707] [706] [705] [704] [703] [702] [701] [700] [699] [698] [697]
レイディ・メイディ 第44話
2008.06.26 |Category …レイメイ 43ー45話
第44話:交換条件
クロエ誘拐事件がまだ入所して2年の薔薇騎士候補生によって解決されたことは、表立っては発表されなかった。
正騎士の面子にかかわるという理由で伏せられてしまったのである。
別段、当事者7名がその処置に対して不満を述べることもなかったので、問題になることもなく、事件は静かに終えた。
だが、事実は事実として薔薇の騎士団内部書類には明確に書き記され、7名の名は女王の記憶に残されることとなった。
女王「クロウディアはよい友人を持ちました。彼らが見事騎士として成長し、これからも彼女を守ってくれたら心強いわ。ねぇ、グラディウス?」
謁見の間で玉座にもたれた女王は、薔薇の騎士団から提出された資料に目を通して、騎士グラディウスに語りかけた。
クロエの養父「はい」
▽つづきはこちら
女王「それで、このナツメというのが、あのヒサメなのですね?」
クロエの養父「そのようでございます」
女王「やはり、私の目に狂いはなかったのです。ニケの思い過ごしね」
クロエの養父「ニケ様の思い過ごしとは?」
女王「いいえ。こちらの話です。この7名には私から、感謝状を贈りましょう」
数日後、女王直筆の感謝状は養成所を通じ、授与されることに。
要件を聞かされていなかった氷鎖女が所長室に呼び出されて行ってみると、机を前に座した所長とその傍らに副所長や主任クラスの教官たちが立ち並んでいたため、入室せずに一度開けたドアを閉めてしまった。
ニケ「コラ、ヒサメ!!」
ドアを大きく開く。
氷鎖女「……し、し、失礼しました」
ニケ「帰るな、帰るなっ!」
ギクシャクしながら逃げようとする氷鎖女の黒服をつかむ。
氷鎖女「せっ……せせせせ拙者、わ、悪いことなどしてはおりませぬ」
ニケ「叱ろうって言うんじゃないんだからぁ~」
レヴィアス「ヒサメ殿! 失礼ですぞ。やましいことがないのであれば、こちらに来なさい」
氷鎖女「はぁ~」
町で馬を借り、その代金をレヴィアスのツケとして勝手に処理してしまったことで叱られるものと思っていた氷鎖女は気が重い。
氷鎖女『さもなくば、薔薇園の薔薇を引っこ抜いてサツマイモに植え替えたことに違いない……いや、待てよ? 釣り針で所長のカツラを取ってしまったが原因か? でもあれはてぬぐいが飛んで木にひっかかったから取ってくれと頼まれての事故……』
どの件で叱られるにしろ、もう逃げられそうもないと覚悟を決めて改めて所長の前へ。
レヴィアス「所長の前では、その奇妙な仮面を取りなさい」
氷鎖女「……え、でも……あの……これはその……」
レヴィアス「取りなさい」
氷鎖女「……はい」
額当てを外して顔を伏せる。
物珍しい物でも見るような視線が集まったのがわかって、嫌な汗を浮かべた。
所長「今度の件ではよくやってくれた、ヒサメ殿」
氷鎖女「?」
所長「教官として生徒を救ってくれたこと、心から礼を言いますぞ」
氷鎖女『なんだ、叱られるのではなかったか』 ほっ。
「いえ。拙者は何もしてはおりませぬ。ただ、あやつら……っと、ええと、学徒たちが友を救っただけの話で、拙者はその場に居合わせただけでござりますれば。お褒め言葉はその者たちに」
所長「無論、彼らにも通達してある。しかしヒサメ殿は彼らと一緒だと都合が悪かろうとニケ殿がな」
氷鎖女「……ああ」
ナツメということになっていたからだと気がついた。
副所長「謙遜は無用だ」
氷鎖女『別に謙遜じゃないのに。ホントに何もしてないし……』
生徒たちの手に負えないと判断するまでは、助太刀するつもりがなかったのだ。
だが彼らはよく動き、見事なチームワークで危機も乗り越えた。
自分の出る幕などなかったのだから、彼らこそを褒めてあげて欲しいと願う。
所長「受取りたまえ。女王様から直々の感謝状だ。この国の人間でもない貴方がよくやってくれたと」
高級紙に書かれた感謝状が差し出される。
氷鎖女「女王様が?」
ニケ「そうだよ、ヒサメ。良かったね」
レヴィアス「異国人の貴女に、異例なことです。ありがたく受取りなさい」
氷鎖女「……何ゆえでございましょう?」
ニケ「……は?」
所長「何がだね?」
レヴィアス『また何を言い出すのだ、この者は』
氷鎖女「何ゆえ、たかだか見習い騎士一人だけのためにここまで大事になったのでありましょうや?」
首をかしげる。
所長「人の命が、たかだかだとでも?」
所長が太い眉を吊り上げた。
氷鎖女「国にとっては」
ニケ「ヒサメ!」
ニケが強い口調でたしなめる。
氷鎖女「……余計な詮索でございました」
厳しい視線にさらされる中、おとなしく頭を下げて退室する。
氷鎖女『あの態度……やはりおかしい』
額当てを装着する。
女王から直々に賜った感謝状を有難みもなく簡単な4つ折にたたむと、一度ひねって廊下の隅に設置されているゴミ箱に放り込む。
彼にとっては紙切れくらいの価値しかなかったようである。
氷鎖女『例え面子があるにしてもだ。たかが見習い一人にここまで大々的な捜索が行われるか? 死んだとしても不幸な事件が一つ起きたに過ぎない。それも女王から感謝状とは…………あの鬼娘……よもや、まことの姫君なのでは?』
「……………………」