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レイディ・メイディ 31-12
2008.04.17 |Category …レイメイ 31・32話
だが、決定的に違うのは体力は自分の体以外に入れ物はないが、魔力は自分以外の器に移しておけるという点である。
魔法道具と呼ばれる物たちがそうだ。
昔の偉大な魔法使いたちが、呪文や魔法陣を書き込み、魔法を振りかけ、半永久的に効果を持続させる宝を各地に残している。
例えば、宝を盗みにきた不逞の輩を退治するゴーレムなどもその一種。
他にも魔法を跳ね返す楯、魔法の力を込めた武器、呪いのかかったアクセサリー……
それらは魔法を唱えた主がこの世から消滅してもなお、この世に残って次の持ち主を待ち受ける。
特別に魔法を施したものでなくとも、魔術師が長く愛用していた杖などはその後も重宝される。持ち主の魔力が染み付いているからだ。
同じように氷鎖女は教え子たちの魔力を他に移し保存させようと考えた。
移し先というのがあの水晶だ。
魔力を高める授業として他のクラスでは、実際に魔法を使わせて念じる訓練を積む。
それは視覚的に学徒たちが効果を体験できるし、やる気も起こる。実践練習も兼ねているのだから一石二鳥で良い訓練法だ。
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長年、この方法で続いてきたのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
氷鎖女も決してそれを否定するつもりはなかった。
理にかなっているとも思う。
けれど、魔法を使ってしまったら魔力は消費されるだけだ。
それはもったいないとつい考えてしまう。
そこで魔力に反応しやすい鉱物の中でも一番吸収が良いとされる水晶を選んで、彼らに持たせたというワケだ。
魔力増幅訓練をしながらその魔力を逃がさず、水晶に閉じ込める。
閉じ込めた力は、実際に魔法を使ったときに使い手の体内から引き出される魔力に上乗せ加算され、より強力な魔法として発動させるのに役立つ。
また、己の魔力が尽きてもこの水晶に今までの自分が貯蓄してきた魔力を引き出して使用することが可能だ。
氷鎖女「……どれ、水晶は持っているか?」
リク「あ、はい。桜餅ね」
氷鎖女「違う。水晶だ」
リク「だから、桜餅」
帯にぶら下げた袋の中から、手の平大の水晶玉を差し出された手に乗せた。
100年使い込まれた物は、魂を持ってモノノケになるんだと氷鎖女が初めて水晶を配布した授業で大まじめに言った。
魔力を込めた物はもっとスゴイものになる。
だから、常に持ち歩け、これも授業の一環だからと。
皆は大笑いしたが、リクは言い付けのままにいつも持ち歩いていた。
名前もつけていた方が呪術的にいいというので、やはり皆は笑ったけれど、リクは「桜餅」と食べ物の名をつけた。
氷鎖女「桜餅ってコレのコトかよ」
思わず、表向きの言葉使いを忘れて毒づく。
リク「先生が言ったんだよ、名前つけろって」
氷鎖女「……それはそうだが……手前の脳みそは食い物のことだけでござるな」
リクのネーミングセンスを疑う氷鎖女だったが、彼の所有する水晶は「タヌキ」だったりした。
氷鎖女「……っと、よし。もう少しか?」
水晶を先端の穴に合わせてはめ込もうとし、少し小さかったので、もう一度削った。
リク「入った」
氷鎖女「うん」
リクの水晶玉は飾り気一つない、質素な杖にはめ込まれた。
リク「魔法使いみたいだ」
受け取ると、元々魔法のための杖を持っているクレスのマネをして振りかざした。
氷鎖女「みたいというか、なるのでござろ?」
いつも落ち着いていて年齢よりも大人びて見えるリクの無邪気な態度に、小さく柔らかく氷鎖女が微笑んだ。
リク「あ」
氷鎖女「うん? 気づいたことがあれば何でも言うて構わない」
リク「ううん。杖じゃなくて。……今、先生、笑ったね? 笑ったでしょ?」
氷鎖女がニヤリでなく、微笑むのは珍しい。
喜んで指摘すると、
氷鎖女「笑ってないでござる」
急に不機嫌になって口を一文字に閉じた。