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ゼロのノート

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レイディ・メイディ 第32話

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 先の試験から早、週間。

 捕らえられた捕虜はほとんど舌をかんで自ら命を断ったが、一人だけ、口を割った者がいた。

 どうやら怪しげな新興宗教団体が与していたらしい。

 クロエが狙われたのは、なんと、姫君としてであった。

 どこでそのような内容にねじ曲がったのか、養成所にローゼリッタの姫君が学徒として紛れているという情報で暗殺計画が企てられたというのだ。

 クロエはグラディウス家の人間で、王家とは縁もゆかりもない娘。

残念ながら貴族ですらない。

 カンチガイで命を狙われては、たまったものではない。

 

ヴァルト「それにしても卒業生が刺客とは」

 

 教官会議の場で、全員が重く口を閉ざしていた。


▽つづきはこちら

 薔薇の騎士を育てるために設立された養成所は生産性がなく、薔薇の騎士になれなかった者でも遊ばせておく余裕はない。

 かつてこの養成所で師事を受けた者は、たとえ薔薇の騎士として大成しなくても、培った力を国のために注ぐべく、軍人として外の部隊に登録、斡旋されるのである。

 特に魔術師などは道を誤れば危険な存在。野放しにするわけにはいかなかった。

 当然ながら、実行犯として捕まった元・薔薇騎士候補生たちもどこかしらの軍隊に所属しているハズである。

 

ナーダ「こんな宗教団体の名前は聞いたことがないわ」

 

 資料に目を通して首をかしげる。

 

ニケ「…………………………」

 

 彼らから大量の薬物の使用が認められると保健医ミハイルから報告が上がっている。

きな臭い団体であるのは間違いないようだ。

 これから、一人残った実行犯は薔薇の騎士団本部に引き渡されて尋問を受ける。

本部より正式な命令として調査隊も組まれることになるだろう。

 養成所ができることはもう、何もなかった。

 所長が解散を告げて、教官たちが一斉に席を立つ。

 最後に会議室を出ようとしたニケをレヴィアスのレヴィアスが呼び止めた。

 

レヴィアス「ヒサメ殿は関係ないでしょうな?」

ニケ「陛下の人選だから。めったなことは口にしない方がいいよ」

 

 足を止めて背の高いレヴィアスを仰ぎ見る。

 ほんの数秒、視線を交わすとレヴィアスは出過ぎたことでしたと軽く頭を下げてかかとを返した。

 他に変わったことといえば。

 視察に訪れていたダンラックは何故か婚約者のメイディアを遠くから確認するだけにとどまり、直接顔を合わせずに養成所を去った。

 逮捕者が出た最中の訪問、報告が上がってから立ち去るというのはどこか含みを感じられそうではあったが、彼は花嫁の家に挨拶しに行くだけだという。ということは、再び養成所へ戻ってくるつもりなのだろうか。

 ダンラックが出て行くその朝、シャトー令嬢宛の真っ赤な薔薇の花束が手配された。

 

メイディア「……なんですの、コレは?」

 

 教室に向かう途中で使いの者から花束を手渡される。

 誰からかと尋ねても教えてはもらえず、このことについてメイディアはときめくどころか激怒した。

 

メイディア「差出人の名も告げないとは。なんと無礼な! それもこれから移動というときに、どうしろというのです、こんな大きな物を」

 

 ゴミ箱を探して突っ込んでやろうかと一瞬考えたが、見事な薔薇の花を改めて見て、花には罪はないと思い直す。 

かといって、誰とも知れぬ人間から喜んで受け取る訳にもいかなかった。

……メイディア的思考では。

 

 

 差出人であるダンラックは情熱の赤い薔薇を受け取って憤慨する乙女がこの世にいようとは思いもよらず、花束を前にどんな殿方がプレゼントしてくれたのか推理して胸をこがす紅色の頬をした少女を妄想していた。

 

ダンラック「私の可愛いフィアンセに今度は何をプレゼントしましょうかねぇ。フォーフォーフォー」

 

 豪華な馬車の中を汚しながら、公爵はクチャクチャと音を立て、ハムを貪った。

 床にも沢山の食いカスが散らばっている。

 宝石をちりばめた太い指で歯の間に詰まったものをかき出すと、その指をしゃぶって後味を楽しむ。

腹が膨れると、今度は背もたれに深く体重をあずけてしばしの間、まどろんだ

窓の外から見える風景には全く興味がないようだった。

 正体を隠して贈り物を続け、会いたいという気持ちを膨らませてじらせてから突然顔を出すと彼女はどんな反応を示すだろうか。

楽しみだ。

それからまだ汚れを知らない、いたいけな少女の白い肌をどうやって傷つけようかと毎日の日課のように考えを巡らせる。

 馬車の揺れが心地よく、全身についた脂肪を波打たせた。

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