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レイディ・メイディ 32-4
2008.04.19 |Category …レイメイ 31・32話
翌月10日。
毎月恒例の郵便配達が行われる。
両親と兄弟、それぞれが近況報告の手紙を送ってくれて、分厚くなった封筒を受け取るレイオット。
クロエ、ジェーン、ステラもそれぞれ家族から受け取り、モーリーには字を書けない母親が手紙の代わりに少しの金銭を送ってくれていた。
……シラーには。
まだ正式に手続きを取ってはいないが、エマリィ=シャトーの一員とされた彼女に金銭と洋服、化粧品、アクセサリーなど高価な品が次々に届く。
どれも騎士を目指す養成所には必要のないもので、しかし隔離された空間の中で存在の大きさと威光を知らしめるには重要な役割を果たすものであった。
シラー「友達の印にコレをあげる。貴女に受け取って欲しいの」
届いた高級化粧品、装飾品を小分けにしてルームメイトやクラスメイトに配って歩く。
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届いた高級化粧品、装飾品を小分けにしてルームメイトやクラスメイトに配って歩く。
誕生日などの特別な日ではないのにプレゼントは受け取れないと断ったレイオットにも……
シラー「お父様やお母様がご厚意で下さるのはわかるのだけれど……私、見ての通り、あまり飾らない方でしょう? 使われないでそのままというのも申し訳ないし……この贈り物たちにも悪い気がして。だから、私の大好きなお友達と一緒に共同で使ったらどうかしらって思ったのよ」
レイオット「でも……」
シラー「……迷惑だったかしら?」
上目使いにねだる視線を送られれば、レイオットも断る理由がない。
レイオット「そういうことなら…………じゃあ1つだけ。ありがたく使わせてもらうわね」
結局、小さな香水の瓶を1本受け取った。
シラー『これでよし』
本当のところは目の眩まんばかりの贈り物を手放すのは惜しかった。
独り占めして毎日眺めて楽しんで、自分を飾り立てて自慢して歩きたいのが本音だ。
平民の子として育った少女にとっては当然の想いだった。
けれど自分はもうシンデレラロードに乗ったのだ。
これからはこんな物はいくらでも手に入る。
それよりも今は、この養成所での立場を安定させる方に余力を使うのが賢いやり方というもの。
プレゼントをされれば、大抵の人間は好意を抱いてくれる。
せっかく贈られた薔薇の花をいらないなどと他に押し付け、ラブレターを破き捨てて踏み付ける、メイディアのようなヘソ曲がりでない限り。
受け取ってしまえば、忠誠の証しのつもりがなくとも、そこに多少の恩は生まれるだろう。
禁止をしている訳ではないが、養成所はお洒落をして恋愛を楽しむ場所ではないのは誰もが承知していることで、あまり派手な格好をしていると教官たちから注意を受けることもある。
それでも年頃の少女たちの、お洒落を求める心は変わりなく。
口紅は目立たない程度に薄づきの色合いのものを。
他は香水やマニキュア、派手にはならないピアスにイヤリング、指輪。
それから服の中にネックレス。
地味な養成所の制服姿であるから余計に、あの手この手で少しでもキレイに見せたいと思うのが乙女たちの常だった。
そこへもってシラーのプレゼントときたら何て素敵なのだろう。
普通にしていたら絶対に手に入らないであろう高級ブランドの品!(……に違いないと受け取った子達は思っている)
貴族の持ち物を手にしたことになる。
心理的効果は上々。
シラーはたちまち多くの友達に囲まれていった。
レイオットのようなプレゼントを受け取らないタイプの人間にも他意がないことを示せば、好意を無にしようとはしない。
こうして絡み取って周囲を固めるのだ。
愚かなメイディアとは違い、彼女は人心掌握術に長けていた。