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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 37-8

 んが。しかし。

 彼がちょぉ~っとばかりいい気になっていたのも誘いがあった当日くらいなもので、翌日にはすっかり忘れ去っていたのである。

 実のところ、あまり本気で受け止めていなかったのだ。

 力量はほとんど差がなく、リクに対して特別引け目も感じていないクレスはメイディアほど燃えていなかったし、精神的に追い詰められてもいなかった。

だから、持ち上げられていい気になっただけで終わってしまったのだ。

 ところが相手はそうではない。

会う度に必ず声をかけ、考えてくれたかと尋ねてくるのだった。

 こうなってくると自分がどれほど強く望まれているのかが嫌でも解ってくる。

 だんだんと興味がわいてきて、メイディアがそうしたように図書室の一角に小さく設けられた資料室に足を運んだ。

 

クレス「へーえ。この卒業生もあのアゴの生徒だったんだ。ふーん」


▽つづきはこちら

 重たいファイルをめくってうなっていると背後で扉の開く気配がした。

 足音は迷う事なく近づき、すぐ隣で止まった。

顔を上げると近頃はクラスが変わってめっきり口を利かなくなった少女が目に入る。

 メイディアだ。

 

メイディア「貴方もこちらに?」

クレス「こちらって……どちら?」 ページをめくっていた手を止める。

メイディア「レヴィアス先生のところ」

クレス「どうかな」

 

 答えとは裏腹にクレスの心はもう決まっていた。

 

メイディア「迷っているなら…………」

 

 言葉を区切って間を置くと、思い切ったように「来ないで」と続けた。

 クレスが閲覧していたファイルを勝手に閉じ、上に手を乗せるメイディア。

 

クレス「なんでさ」

 

 わずかに驚きの色をにじませて立ったままの相手を見上げる。

 

メイディア「貴方が来たらワタクシ……」

 

 言いよどんだ彼女は自信がなさそうでいかにも頼りなく映った。

 どうしてこんな表情をするのだろう。

クレスはレヴィアスに一方的に誘いをかけられ、少し興味を抱いて資料を見に来ただけだ。

悪いことなんてこれっぽっちもしていないのに、どうしたことか罪悪感が胸をちりりと焦がした。

 

クレス「僕は別に……」

 

 視線を泳がせる。

 

メイディア「ああ、ごめんなさい。いいの。今のは忘れて。貴方が来るのは大歓迎です」

 

気持ちの揺れを悟られたと気が付いたメイディアは、瞬時に普段どおりの勝ち気な態度で本音を覆い隠した。

 けれどいつもの覇気は、まったくと言っていいほど感じられなかった。

 

メイディア「よろしくて? 今のは忘れなさいな。ワタクシは貴方が来てもきっと負けはしませんから。それではごきげんよう」

 

 伝えたかったのはそれだけだったのか、特に資料を探すでもなく、念を押して出て行ってしまった。

くるりと巻いた金色の髪を揺らして。

 

クレス「何だったんだ。……変なの」

 

 閉じられたファイルを再び閲覧しようという気も失せて、元の棚に戻す。

 何を言おうとしていたのか。

 相手どころか本人にだってわからないとメイディアは足早に廊下を歩いた。

 

メイディア『どうしてこんなにもやもやするのかしら!! もう嫌だわ、ワタクシとしたことが!!』

 

 クレスを引き抜こうとレヴィアスが動いていると知ったときの焦燥感といったらない。

 では一体、何に焦っていたのか。

 考えずとも解っていた。あえて解らないフリをしていたけれど。

 

メイディア『そうだわ、ワタクシはクレスが来たら負けると思ってる……!! クレスが来たら、先生に無視されると思ってる!! ワタクシは望まれて行ったワケでなくて、自ら頭を下げて入れてもらったのに、クレスは先生にぜひにとお声をかけられてる……。ええ、わかるわ。わかりますとも!! 彼とワタクシの差くらい!! でも、違うの!! 何が、何が悔しいって……』

     「ああっ!!」

 

 立ち止まって廊下の壁を拳で叩く。

驚いた生徒達が振り返ったが、メイディアは気が付きもしない。

 

メイディア『何が悔しいって、今、ワタクシがクレスが来れば負けると自分で思ってしまったことだわ!!』

 

 歯を食いしばって足を一度踏み鳴らした。

 敗北を認める気持ちの、なんて惨めなこと!!

 まだどこかで負けてないと思える頃は、どんなに実際に負けていてもこんなには惨めではなかった。

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