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ゼロのノート

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レイディ・メイディ 第38話

第38話:二者択一

 時間は少し戻り、クレスが猫と戯れ、その後にレヴィアスからの誘いを受けていたその頃。

 ニケに呼ばれた氷鎖女は、ニケの教官室でぽつんと向かい合って座っていた。

 女王に呼び出され、半月ばかり留守にしていたニケもとっくに帰って来て普段の生活に戻っている。

 

氷鎖女「人形?」

 

 今、彼はローゼリッタの姫君を模した人形を姫と似ているクロエ=グラディウスをモデルに作るようにと命じられたところであった。

 

ニケ「そ。女王から、人形師のヒサメに直々のご命令だよ。有り難くお受けするんだね」

 

 特別講師らしく、部屋は平教官と違って大きな作りになっていたが、それでも白魔道士ニケアルカイックの部屋は本の洪水に飲み込まれていた。

 地震があったら即座に本の下敷きになってつぶされてしまいそうである。


▽つづきはこちら

氷鎖女「何ゆえ、クロエでござるか」

ニケ「だからー。クロエは姫と瓜二つなんだよ。だから狙われたっていうのは知っているでしょ?」

 

 紅茶のカップを手に傾けて中の液体を回す。

 

氷鎖女「しかしながら、姫は姫。クロエはクロエであって、いくら似ておっても所詮、別者。本物を見ずして、代わりの者を通した人形など作れませぬ」

 

 この話が持ち上がってから、頑固にも氷鎖女は同じ台詞を繰り返していた。

 

ニケ「姫に会ったことはないの?」

 

 絶対に会ったことがあるハズがないのだ。

それを知っていてあえてかまをかけてみた。

 疑いをかけた氷鎖女の反応が見たかったのである。

 

氷鎖女「ござらん。城にいたときにひょっとしたら会っておったのやもしれぬが、しかしながらどの御方が姫君かは……」

 

 しきりに首をかしげるそぶりに嘘らしさはなかった。

 これは心配なさそうだと判断したニケは、人形作りを薦める。

 

氷鎖女「会ったこともない者を本人と見間違うくらいに作れとおっしゃられても…………」

 

 困惑した様子で額当てを直す仕草を繰り返す。

 

氷鎖女「外は同じでも内が違いまする。内が違えば出来栄えもおのずと違いが出てくるものでござれば……」

ニケ「それでいいんだよ、それで」

 

 当然、納得しかねるといった風の相手につとめて軽く言う。

 

ニケ「姫は今、体調を崩しているからモデルはできないけど、人形は式典までに完成させられないとならないんだよ。大丈夫。ヒサっちならできるって♪」

氷鎖女「しかしニケ殿……」

ニケ「ダメダメ。女王からぜひにってことだから、断ることはできないの。……わかる?」

氷鎖女「周囲に知られずにクロエをモデルにするということは、拙者はさりげなくクロエに近づいて、観察せねばならず、近くにいくということは、拙者が捕獲されてイジメられてしまうということでござるぞ!!!」

 

 出された紅茶に口をつけようともせず、氷鎖女はかぶりをふった。

 

ニケ「イ……イジメ……って……。クロエはそんなことしないって」

氷鎖女「いいや!! ニケ殿は知らぬからそのようなことをおっしゃる!! あの牝狐めは、拙者が拾って食べることを承知で食い物を転々と落としておき、最後にはカゴをかぶせて拙者を取っ捕まえて大喜びする女にござる!!! 恐ろしい鬼娘でござるぞ、あやつめは!!」

ニケ「……………………。あのさぁ……、拾い食いする方がどうなのかなぁって気が……」

 

 こんな変な態度だから、面白がられて追い回されるというのに。

 

氷鎖女「忍者忍者と差別をしてイジメるでござる!! 拙者、何も悪いことをしていないのに、追い回してくるでござるよ!! うわぁんっ!!」

 

 両手で顔を覆って、めそめそ。

 

ニケ「…………………………」

 

 ……ニケは悟った。

 

ニケ『あっはっはー……こいつぁ、13番目の魔女じゃねーやぁ……』 脱力~。

 

ガクリと肩を落とす。

 少なくとも、国中に呪いをかけてすさまじく散ったシレネが、女の子にイジメられてしまうこんな弱虫クンではあるまい。

 疑った自分がおかしい。

 

氷鎖女「嫌だ、嫌だ!! イーヤーだっ!!!」

 

 モデルが本人だとか違うからというよりもどうやらこっちが本音らしい氷鎖女は、とうとう足をばたつかせて徹底抗戦の構えだ。

 

ニケ「好意だって。好意♪ 先生が大好きなんだよ☆」

氷鎖女「嘘だ、嘘だ!! ニケ殿に対するのと違う!!」

 

 ニケちゃんニケちゃんとただ懐いてくっついて歩いているのに対して、氷鎖女には力の限り追い回すクロエ。

 ニンジャという生物?に夢を見過ぎである。

 

氷鎖女「拙者は絶滅危惧種だから、捕獲してはならぬと言っておるのにぃっ!!」

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