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レイディ・メイディ 38-4
2008.05.07 |Category …レイメイ 36-38話
ニケ「んー。まぁいいんだけどー」
どう見てもジジィどころか、十代前半の、氷鎖女よりもまだ齢低い少年にしか見えないはずだ。
誰も150歳を越えた老人だとは思っていまい。
ただ、養成所の上の連中は皆知っており、特別な秘密事項でもない。
生徒や若い教官連中は知らないハズのことだが、知っている人間がいる以上、どこからかそう聞き及んだとしてもおかしくはなかった。
しかし本当にそうだろうか。
まだ来て間もない頃にも老人扱いした一瞬があったような気がするのだが……
ニケ「皆がこっち見てるね、場所を変えよう。彼女のことがバレると困るでしょ?」
彼女=菜摘芽。
▽つづきはこちら
氷鎖女「ぐぬぬ。もうアレはやらぬと申しておりますに」
仕方なく、場所を変えて使用していない学徒指導室に足を運ぶ。
ニケ「まぁ座りなよ」
氷鎖女「結構。長く話すつもりはござらん」
また厄介ごとは御免だと断固断る姿勢で臨む。
ニケ「すねない、すねない」
軽く笑ってから、机にひょいと腰掛けるニケ。
ニケ「ね、ヒサっちは履歴書の本人データ、ちゃんと正しく書いてる?」
氷鎖女「……何事でござるか。今更、急に?」
ニケ「うん、あのさぁ、ヒサっちってひょっとして……………」
氷鎖女「…………何か……」 どき……
二人の間に少しの沈黙。
額当てに隠れた表情は読み取ることはできないが、ニケは感じていた。
この沈黙の一瞬で相手が必要以上に緊張したのを。
何か隠しているからの反応とみていいだろう。
ややあって、氷鎖女が観念したように口を開いた。
氷鎖女「…………ごっ……ごめんなさい」 ブルガタ。
ニケ『お? 案外、容易く話す気に…………』
氷鎖女「ゴメンナサイ、身長、サバ読みましたァー!!! ホントは160までちょっと足りないんでござるぅーっ!!! うわーんっ」
ニケ「そっちかいっ!!?」 ガクッ。
氷鎖女「だって、だって……」
ニケ「……いいんだ、身長は。もう159でも160でも変わらないと思うし…………」
と言いながら深くため息。
頭痛がしてきた。
氷鎖女「159と160は天地の差でござるっ!! 大台でござるぞ!!? 例えるなら198円と200円くらいの差が…………」
ニケ「違う違う。そうじゃなくて」
氷鎖女「?」
ニケ「ヒサっちって………………ホントは女の子なんじゃないのって話」
氷鎖女「は?」
ニケ「何か理由あって男性のフリしてるとか? だから顔を見せられないし、人と関ろうとしないんじゃない?」
氷鎖女「いえ。もー、全然」
ニケ「そうかい? ここだけの話だからさ。お互い、本当のことを言おうよ。理由を言いたくなければそれでもいいから」
足をぶらつかせて遊ばせるのをやめ、真面目ぶって顔を引き締める。
けれど相手は困惑したように首をかしげるだけだ。
氷鎖女「はて。拙者……何ゆえこのように問い詰められておるのか……」
ニケ「……わからない……と? そっか」
氷鎖女「クロエがどうこうあたりまでは理解してござる。そして菜摘芽の件はお断り」
ニケ「うん、それはそれとしてね。いくつか気になったんだよ。話してて」
氷鎖女「?」
一つ息をついて間をおき、下から覗き込むようにして低く言う。
ニケ「……小僧。ワシが老人だと、いつわかった?」
氷鎖女「!!」
『じさまだ、ホントに……!!』
急にニケの声が声変わり前の少年から老人のそれに変わり、氷鎖女は先程までの冗談交じりの会話でないことを悟った。
氷鎖女「…………さて。誰から聞いたのだったか」
ニケ「来たばかりの新人教官……しかも異国民。すでに身をもってわかっていようが、養成所のほとんどの教官はお前さんを歓迎しとらん。そんなお前さんに誰がワシの正体を知らせる?」
氷鎖女「そのようなことを申されましても……」
本当に覚えがなかった。
ただ自然にニケは老人だと思っていたのだ。
こうして実際に幼い少年の口からしわがれた声を聞く驚きは隠せないが。
ニケ「それからお前さん。先にも言ったが、女のように思える」
氷鎖女「女……」
ニケ「悪いようにはせん。別にどうこうしようとは思っておらん。さ、本当のことを」
氷鎖女「……ふぅ」
あきらめたように肩をすぼめると、氷鎖女は足早に窓に近づいた。
室内のカーテンを全て閉めきってから、額当てを自ら外して机の上に置く。
ニケ「……!!」