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レイディ・メイディ 35-3
2008.05.02 |Category …レイメイ 34・35話
尋ねられてニケは考え込んだ。
シズカ=ヒサメという人間は…………?
初日に着任の挨拶をした彼は内気を通り越して挙動不審な生き物だった。
どこかおかしいこちらの言葉を操り、時々通じてなかったり、別の意味になっていてもわりかしスルー。
生徒たちには教官というよりは友達のように扱われており、ちょっかいを出されやすい。
それに対しては逃げ回るだけで反撃の意志はまったくもって見られない。
責任感と緊張感に欠けており、試験の日程を忘れて大騒ぎ。
会議中には足をぶらつかせて落ち着きなし。
窓の外を見ては空想に浸っている様子。
そんな彼が授業がないときに何をしているかと思えば、絵を描いたり人形を作ったり。
さもなければ、日がな一日ボンヤリして過ごす。
空気を読むのが下手なのか常識がないのか、いきなり養成所敷地内に芋を植え、敷地内にから煙が上がったと行ってみれば、受け持ちクラスの生徒たちと焼き芋大会をしていたりする。
図書室の上の教室にやってきては、首吊り人形をぶらんと窓際に落とすというとんでもないイタズラもしでかす。
▽つづきはこちら
ニケ「……………………………………」
女王「ニ、ニケ?」
ニケ「……………………………………」
女王「えっと……?」
ニケ「いいえ。やはり思い違いでした。あのような者が13番目とはとても……」
首を左右に振る。
女王「ね、そうでしょう?」
口元をほころばせて手を打つ。
ニケ「けれど陛下、貴女は簡単に信用し過ぎます。個人としては美徳ではありますが、貴女は一国を預かる……」
女王「わかっております。でもこちらから信用しないのでは相手からの信頼も得られません」
胸を張って言い切る彼女は昔から変わりなく、汚れを知らない魂の持ち主である。
現在、ニケが預かっている姫娘も彼女とよく似ていた。
ニケ「ならばそれでよろしいかと」
こちらからは常に疑いを捨てず、相手からは信頼させてしまうことは十分可能である。
少なくともこの魅力的な女王になら。
だが、敢えて汚れた道を示すこともないと思い直し黙っておいた。
「もしも」の時が来れば、そのときは女王に代わって自分が手を汚せばいい。
自分はそういう役割だと宮仕えした時から心に決めていたのだから。
ニケ「彼は扱いさえ間違わなければ、きっと陛下のお役に立ちましょう。貴女様の包容力をもってすれば、恐らく誰もがひざをつくはず。しかしながら、彼の心は見かけよりもはるかに幼稚。くれぐれも気を抜かぬよう、これだけはお願い申し上げます」
女王「……何をそんなに懸念しているのかわかりかねますが……ニケがそう言うのであれば、従います」
ニケ「……はい」
女王「さぁ、戻りましょう。今日は貴方のための宴を用意させたのです」
話題を変えて、来たときと同じように石の階段を降り始めた。
ニケは一度振り返って人形を見た。
ああは言ったものの、脱ぐいきれない不安がしこりとなって胸に残る。
糸車を間に挟んで、微笑む少女と向かい合う老婆。
姫と同じ年にこの世に生を受けたあかつき姫と日の王子。
どこか底知れぬ青年・シズカ=ヒサメ。
偶然と言ったら確かに偶然かも知れない、ヒサメの登場は。
ニケの懸念はこじつけに過ぎないのかもしれない。
けれど用心を重ねるのに越したことはないだろう。女王が甘い考えならば。
城に留まるつもりはなかったが、予定変更だ。
もう少し城内の資料館で13番目の魔女と呪いに関する記述を探してみよう。
今までに何度となく繰り返し調べてきたが、まだ読み落としがあるかもしれない。
それに地下の封印も気になる。
一度、見に行く必要があると思った。