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ゼロのノート

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レイディ・メイディ 第36話

第36話:メイディアの決断

 クラス対抗親善試合の翌日もメイディアは休まなかった。

 クロエの回復魔法のお陰で体の痛みはいくぶん和らいでいたが、可愛らしい顔は腫れて見る影もない。

 その上、腫れからくる発熱で頭もぼんやりと冴えなかった。

それでも取り憑かれたように教科書にかじりつき、魔法の勉強を続ける姿は鬼気迫るものがあった。

 けれど頑張りに反比例して魔法の威力は空回り。

いつものように魔力を練り上げることができずに不発が続いた。

 

メイディア『おかしい……!! 不発なんて今まで一度もなかったのに!!』


▽つづきはこちら

 単純に呪文を唱えれば魔法が発動するわけではない。

発動するレベルにまで魔力を練り上げてタイミングを図り、呪文と合わせる技術がなければ成功はしない。

 この技術というのがなかなか難しく、呪文に気をとられていれば魔力を高めるのがおろそかになり、魔力にばかり注意を向けていると呪文が口から出て来ない。

 どちらも同時にこなさないとならないため、候補生たちはちょくちょく不発をしでかした。

 特に試験となると心が乱れて上手く呪文と魔力を合体させられない者も多い。

 この点において、メイディアは初めから優秀だった。

努力家なのもさることながら、自分にできないわけがないとどこから沸いてくるのか出所不明の自信に満ちあふれていたからである。

 彼女が不発をやらかしたのは、ほんの習いたての頃だけで、コツをつかんでしまえば早いもの。

 それが今日に限ってはあまりにヒドイ。

 熱を出しているから体調が万全じゃないのだと自分に言い聞かせはしたものの、今までだってこんなことはあったハズだ。

女性特有の月の物が来たときも風邪で体調を崩したときも魔法の不発なんてあり得なかった。

 

メイディア「なんてこと……!!」

 同じクラスの面々が珍しいものを見るような目で、こちらを観察しているのが腹立たしい。

 

リク「昨日の今日だから、仕方ないよ」

メイディア「何が仕方ないのです!!?」

 

 心配して声をかけたリクにもかみつく始末。

 

リク「疲れているんだよ。休めばすぐ良くなるから……」

メイディア「休んでるヒマなんてないのだわ!! どいて!! 邪魔よ」

 

 昨日の敗北がそれほど悔しかったのだろうとリクは了解して側を離れる。

 一方、メイディアは敗北したのは昨日の少年にではなく、クレスとリクにだと思っているので当人に労られたのが馬鹿にされているように感じて我慢ならない。

 そうでなくとも朝っぱらから目覚めも悪かったからムシャクシャは最高潮。

 しばらく見なかったあの夢でうなされて、まぶたを開いたら部屋には誰もおらず、時計の針は9時を回っていた。

完全遅刻。

 夢は幼い頃から繰り返し見ていた恐ろしい夢だ。

メイディアは見知らぬ窓から幸せそうな一家を覗き見しているのである。

優しく微笑む若い両親とお兄ちゃんと可愛い妹。

そのうちお兄ちゃんはドアから外に出掛けていってしまう。一人で。

 その間に残りの両親と妹は部屋飾り付けを始めるのだ。

 ハッピィ・バースディ♪

 彼らはメイディアが見ていても気が付かない。

幼いメイディアは仲間に入れてもらいたいと羨ましく思って見ているのに、誰も声をかけてくれない。

 それはそうだ。

 だってメイディアはここにはいないのだもの。

 もっと遠く離れたところで、これを見ているのだもの。

 息子の誕生祝いをするために料理をテーブルに乗せて飾りをつける一家を、メイディアは自分の家族に見立てて妄想した。

 ちょうど、妹というのが自分と同じくらいの年頃に思えたから重ね合わせるのに都合がいい。

 誕生日にいてくれたことのない父と母を思い描

 ああ、あの幸せな絵の中に飛び込んでゆけたら。

 そうだ。見に行ってみよう。ひょっとしたら、暖かい光の一つでもわけてもらえるかもしれない。

 そう期待してメイディアは自分の部屋を出た。

ずっとずっと裸足で歩いた。

柔らかい足の裏は土に汚れ、細かい切り傷が無数について血が出ていたけれど、気にはならなかった。

 どこまでも先をゆくと驚いたことにその家は現実に存在していた

 夢の中の現実だが、メイディアは本当だと思った。

 けれど中に踏み込んでみたら、幸せな温かい絵は全て赤く塗りたくられていて………………

…………そこでいつも目が覚める。

 この夢は精神不安定になると必ずといっていいほど見る悪夢だった。

 2年になって初めての試験の時にクロエが自分のせいでケガを負ったその後も養成所に帰ってから何度か連続で見た。

その前まではしばらく忘れたようになかったのに。

また今日になって見てしまうとは。

 

ジェーン「またお嬢が荒れてるわね~」

 

 ため息交じりにジェーンが言った。

 

ステラ「寝てるときはおとなしかったけど、目覚めたらもうアレか。……ま、私には関係ないけど」

アン「でもリク君、可哀想。宿舎まで連れて行ってあげたりカタキ打ってあげたりしたのにあんな態度とられて

シラー「仕方ないわよ、メイディアだもの」

 

 その一言で全員が納得できてしまうのが悲しい。

 

ステラ「それにしてもレヴィアス教官はどうして今日も一緒にいるのかな」

 

 授業中、ずっと氷鎖女の隣に立っている別のクラスの教官。

 

アン「うん、何だか観察してるみたいね。ちょっと怖いな」

 

 肩をすくめる。

 

ジェーン「ヒサっちと何話してるのかしら?」

シラー「リク君とクレス君を見に来たんじゃないの? ホラ、昨日の今日だし」

 

 またもシラーの一言に全員がうなづいた。

 そんな話題の教官はシラーの言ったとおり、リクとクレスを目当てに現れたのだった。

 他の生徒に目をくれることもなく、二人に熱視線を送っている。

 隣に立つ氷鎖女はといえば、レヴィアスの長く尖ったアゴに視線釘付けだ。

 時折、チョイと手が動いては思いとどまるを繰り返している。

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