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レイディ・メイディ 34-9
2008.05.01 |Category …レイメイ 34・35話
ミハイル「威張って言うことか。教官にはそれも必要だと聞いたがな。懲戒免職食らっても知らないぞ」
氷鎖女「じゃあ、黙ってておくれ」
ミハイル「あのなぁ」
氷鎖女「失礼するでござるよー」
廊下に逃げて扉を閉めた。
幸い、本気ではないお小言は追ってこなかったので、のんびりと袖に手を突っ込んで歩きながら考え事をする。
氷鎖女「約一半年か」
メイディアがクレスやリクに追いつけないと気が付くまでにかかった所要日数は。
99%の黒薔薇候補生は入所して早々、現実に気が付いてあきらめたというのに、比べてずいぶんと遅いものだ。
氷鎖女『けど、そういうバカは嫌いじゃない』
▽つづきはこちら
たった一年半と一口で言っても、これまでの生活を犠牲にして各地から集まった候補生たちにとって養成所での生活は濃密なものだ。
きっと長くて短い一年半であったに違いない。
訓練訓練、勉強勉強。
週に一度の休みも訓練に励む生徒たちがいる一方、途中で自分の限界を知って脱落する者、厳しさに耐え切れずに逃げ出す者も多くいた。
どうにかこうにか踏みとどまっている現在の連中は、互いに切磋琢磨して高め合っている。
しかしリク、クレス両名に関してはどうだろう?
周囲との差がありすぎて、ある意味で無視されてしまっていないか。
彼らに敵うわけがないと始めから、好敵手としての対象から外されている。
クレスはお前たちとは格が違うとばかりに派手なデビューを飾って力のほどを見せつけたし、リクは勝って当たり前、できて当たり前と思われている節がある。
それは学徒の間のみならず、教官の間でもまかり通った認識だ。
けれども、このような周囲の共通認識とズレている人間が一人いた。メイディアである。
二人の天才と称されるまでの力を目の当たりにしても、自分こそが一番に相応しいと口にできる図々しさは、蝶よ花よと育てられた箱入り娘ならではの愚かで能天気な妄想だと思っていたが、はて。
ワガママで高飛車な彼女が、どれだけ周囲を敵に回しても高みで笑っていられるのは、大きく広げた風呂敷にせっせと中身を詰め込む手間を惜しまないからほかならない。
派手好きで軽薄な外見に惑わされがちだが、口だけでなく、それに見合う努力もしているのだ。
常に何かに追われて走り続けているようにも見えたし、持ち前の勝ち気な性格が突き動かしているのかもしれなかったが、どちらにせよ、このまま挫折してしまわなければ面白いことになりそうだと氷鎖女は思った。
考えをめぐらせて廊下を歩いていると、目の前にレヴィアス教官が現れて足を止めた。
氷鎖女「本日は…………どうも」
軽く頭を下げたが、相手はいつも通り応じない。
上下関係をはっきり区別させているつもりなのか、こちらから挨拶をしても当たり前のようにうなづくだけで決して同じように返したりはしない。
これは彼に限ったことでなく、年のいった教官はほとんどこうなのだ。
出身国でもよくある光景で常に下位だった氷鎖女は特に気には止めておらず、おとなしく従うことで相手を増長させているのだと気づくよしもない。
レヴィアス「今回は才能に助けられましたな」
氷鎖女「は?」
レヴィアス「私が…………私のクラスが負けたなどと思わないでいただきたい」
氷鎖女「はぁ……。さようなことは思ってはござりませぬ」
レヴィアス「ならば良いのです。それならば」
氷鎖女「……………………」
レヴィアス「くれぐれも自分の力などと勘違いのないように。貴方は生徒に恵まれただけなのですからね。そのことをいつも肝に銘じておきなさい」
氷鎖女「ははぁ」
ナルホド、ソレが言いたかったのか。
悔しくて釘を刺しに来たのだ。
遅まきながら気づいてうなづくと、返事が良くなかったらしい。
態度が悪いと叱られてしまった。
言いたいことを言って気が済んだか、ローブを翻したレヴィアスを今度は氷鎖女が引き止めた。
氷鎖女「お待ち下され」
レヴィアス「何か?」
氷鎖女「医務室には?」
今、自分が来た道を振り返る。
レヴィアス「医務室? 医務室が何です?」
氷鎖女「……………差し出がましいようでござるが………………あ……いや、別に……」
レヴイアス「?」
氷鎖女「何でも」 首を横に振る。
レヴィアス「…………ふん」
ケガをした生徒のところに顔くらい出してやってもいいのではないかと思ったが、言うのはやめにした。
他人のことだ。好きにすればいいだろう。
氷鎖女『それに、後で行くつもりだったものを俺が言うことでヘソを曲げて行くのをよすとか言い出されても困るしな。…………やれやれ、扱いづらいじじだ』 肩をすくめる。