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レイディ・メイディ 24-10
2008.02.23 |Category …レイメイ 24、25話
医務室。
ミハイル「…………………。だからって……」
赤毛のミハイル保健医は盛り上がった一つのベッドを呆れ顔で見つめた。
ミハイル「保健室でイジケるなよ…………ナツメ」
ナツメ(菜摘芽)という名を与えられた氷鎖女が布団から顔だけ出して、恨みがましくミハイルを睨む。
睨んだところで額あてをしているのだから、ミハイルからはわからない。
氷鎖女「人間不信とか言う心の病でござる。放っといて下され」
ミハイル「……っていうか、ベッドに入っているときくらい、ソレ取れよ……頭の」
氷鎖女「…………嫌だ」
ミハイル「……………………」
▽つづきはこちら
女物の服を着せられて逃げ出した氷鎖女に渡しておいてとナーダに頼まれた資料に目を通す。
名前:ナツメ(下の名前を聞かれたらテキトーに) 年齢:16歳 専攻:赤薔薇
一人称:私(拙者禁止) 口調:女言葉厳守(ござる用語禁止) 実力:イマイチ
性格:おしとやか。おとなしい。女の子らしい。←くれぐれも。
もう一度、氷鎖女が丸まっているベッドの方を見て肩をすくめた。
シャトー伯爵邸。
夫人「あなた、ワイズマン公との婚礼……どうなさいますの? 段取りが済むまで約1年間……色々理由をつけて引き伸ばして来たけれど、もうそろそろ本当に嫁がせないと……」
落ち着きなく部屋の中を行ったり来たり。
伯爵「そう急くな。ワイズマン公にメイディアが養成所に所属したことはどうもお耳に届いているようだ」
送られて来た信書に目を通す。
夫人「し、知られてしまったのですか!? ……ああ、もうおしまいだわ……」 クラリと目眩。
せっかく娘をキレイに仕立て上げてこぎつけた婚姻だったというのに。
公爵家に嫁がせることで、シャトー家をさらに強固にする結び付きになる予定だったのに。
なんということだろう。
どこの世界に貴族の、それも伯爵家の令嬢が軍隊志望の養成所に身を置くだろうか。
姫君は守られて当然で、守るのは兵士の仕事なのだ。
戦ともなれば、夫の伯爵も甲冑に身を包んで出陣する所だが、メイディアは息子ではなく娘だ。父について戦場におもむくこともない。むしろそんなことがあってはならない。
すでに狭い貴族社会の間では、メイディア嬢は噂の種だ。
舞踏会のいい話題のさかなにされている。
元気なお嬢様だこと。
陛下に対する忠義がお厚いこと。
ご令息でなくて残念でしたわね。
シャトー夫人は会に招かれる度に肩身の狭い思いをせねばならなかった。
こんな娘をワイズマン公が欲しがるだろうか。
伯爵「それには心配及ばない。公爵は元気なのはよいと申されている」
夫人「そんなの私たちに対する慰めに決まっているじゃありませんか! どこに馬を一人で乗り回すおてんば娘を良いと言ってくれる殿方がおります!? きっと今にお断りの信書が届くに違いありません。そうなれば貴方、ウチの子は婚姻を交わしておきながら嫁ぐ前に破棄されたというレッテルが一生ついてまわりますのよ!? つまりそれは花嫁に問題があるということで、天下の笑い者もいいところ! その後の嫁ぎ先だってどうなることか……」
伯爵「そう興奮するな。ワイズマン公はますますもって楽しみだと言って下さっている。……きっと変わり物好きなお方なのだ。この際は、ご温情に甘える形でもう少し時間をいただくことにしようじゃないか」
夫人「そんな悠長な……」
伯爵「悠長などではない。シラーブーケの存在があった以上、メイディアが本当に我々の間の子か怪しくなっている」
夫人「貴方! 言って良いことと悪いことが……!」
伯爵「わかっている。もしも……もしもの話だ。もしも、本当はシラーこそがメイディアだったらどうするつもりだ」
夫人「そっ……それは……」
伯爵「公爵に偽りの娘を差し出すワケにもいくまい」
夫人「けれど公爵がお望みなのはメイディアですわ」
伯爵「……ともかく、ともかくだ。教会に行って手紋を調べるしかあるまい。ハッキリさせねばならないことだ」