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レイディ・メイディ 第16話
2007.12.03 |Category …レイメイ 14-17話
第16話:レベル2
季節は紅葉の美しい秋から白い冬へ、そして花開く春へと移り変わっていた。
養成所では今日も変わらずの厳しい訓練が繰り返されている。
その間、クロエ応援のために白薔薇騎士を襲って制服を強奪したことがバレたジャックと道連れガーネットが減給された上、一カ月間、休日返上で学徒の相手をさせられていたことも付け足しておこう。
今年も試験結果が廊下に貼り出されている。
黒薔薇の天才と称されるリクはずっとトップを走り続け、その後を追いかける形でメイディア。
いつか大風呂敷を広げた通り、前にいた14人をジリジリと追い上げ、とうとう抜いてしまったのである。
▽つづきはこちら
メイディア「どう? 1年ですわ。言った通り追いついてきたでしょう。ワタクシは人の下にいるのは我慢ならないの。いつでもトップでなくちゃ」
リク「はいはい。そういう台詞はトップに立ってから言おうね」
メイディア「すぐですわ」
リク「それは楽しみ」
メイディア「……ふん。ずいぶんな余裕ですこと。皆さんは初めから貴方に敵わないなんて言っているようですけど、そんなのはまやかしに過ぎません」
リク「俺もそう思うなぁ」
メイディア「あら、わかっているじゃない。天才天才と騒がれていても所詮は人。ワタクシがそれを証明してみせますわ。そして初めから戦おうとしなかった負け犬の皆様に知らしめてあげましょう。ホーッホホホホホホ!!」
リク「待っているよ」
13の誕生日。
家族を惨殺された事件は迷宮入りとなり、生き残りの少年・リクは感情の一部をどこかに置き忘れてきてしまった。
それは情熱であり、悲しみであり、喜びだ。
嬉しいこと、楽しいこと、残念なこと、寂しいこと……それぞれ今もちゃんと持ってはいたが、それは心からのものではないような気がしていた。
表面をなでるだけの感情。
愛する家族を失った衝撃が、強い感情を封じ込めてしまっていた。
自分が壊れないように、無意識で行われた防御策であった。
無意識下で行われたコントロールなだけに本人はあまり自覚がなかったのだが、以前と自分が違うと気が付いてからは、失われた感情を取り戻したいと願うようになる。
この養成所に入ったのは、生活の安定と自分を飼い殺しにしたがる貴族から逃げるためであったのだが、入ってみるとなかなかに楽しいところだ。
偶然にも父と同じ東国出身の教官がおり、彼の興味を引くのに申し分ない実力の持ち主で、周囲にできた友人たちは皆気のよい連中だった。
とりわけ、一生懸命さが伝わってくるレイオットとレクの二人は大のお気に入りだ。
そしてこの一風変わったお嬢様のメイディア。
激情の塊といっていい程の大変不安定な生き物。
コレは面白かった。
言うこと成すこと常識の範疇外。
ワガママで泣き虫でヒステリックかと思えば、時に意外な場面で無邪気に笑う。
そうかと思えば、たゆまない努力で自分を追いかけてくる。
幼い頃から賢く聡明な少年だったリクは、あくまで周囲の憧れの的であって、決して好敵手ではあり得なかった。類い希なき容姿も手伝って、ただ遠巻きに神の子であるかのごとく尊敬を集めるばかり。
本人にそんなつもりは少しもなかったというのに。
だが、それらを一切無視した形でこのお嬢様は自分に指をつきつける。
「お前を倒してやる」と。
これが面白くないワケがない。
リク「君は真っすぐ前しか見えてないんだねぇ」
メイディア「あら、見えてないだなんて失礼だわ。見る必要がないから見ないだけですの。回り道なんかしているヒマはなくてよ」
リク「うらやましいなぁ。俺は何も見えないんだ」
そう、何も見えない。何も。
メイディア「それなら、近いうちにワタクシの背を見せてあげますことよ」
そこへクレスが割り込んで来た。
クレス「僕のことを忘れていないだろうね。悪いけど、お前もお前も僕の目じゃあないんだよね」
リクとメイディアを順番に睨んで不適な笑みを浮かべる。