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みやまよめな:63
2008.06.10 |Category …みやまよめな
廊下を怒りに任せて乱暴に歩き、
社『アレは姉上ではないっ!! 姉上は殺生がお嫌いな方だった!! つつましくしとやかで……。あんな……あんな淫らなふるまいをなさるお方ではなかった!!』
先程の濡れて艶っぽい瞳を思い出す。
一瞬、胸が騒いだが、すぐに首を左右に振ってその気持ちを追いやる。
社『姉上はいつも民を思いやり、先見の力でお救いになられ、そしてあの力を戦に利用されることを嫌った……なのに……!!』
今では見る影もない。
▽つづきはこちら
部屋に残った都「……近頃、社もうるさくてかないません」
数々の宝の山の中からそっと、一つの骨壷を取り出す。
都「……ねぇ、猛?」
骨壷に語りかける。
……そう。
父の手の者が奪ったと社が思っていた猛の髑髏(しゃれこうべ)は都自身が所持していたのである。
取り上げられるとわかっていて、隠し持っていたのだった。
都「まぁ、猛ったら、そのようなこと…………うふふふふっ」
袖で口元を隠して笑う。
…………一人で。
そんな姿は時折、小間使いや巫女たちに目撃された。
目も当てられぬ残忍な振る舞いと重なり、人々の心はかつての慈悲深く神秘の神子から離れて行く。
そしていつの間にか占い美姫は鬼姫と成り下がっていった。
部屋の鏡台に映る都の背には、いくつもの首を持つ黒い蛇がうねっている。
実際に目には見えない、不吉な黒蛇。
…………いつか都が見た父のように…………
3,
都24歳。社23歳。
この数年は日照りによる飢饉、そして追い打ちをかけるようにはやり病が蔓延(まんえん)した年だった。
人々はやせ細り、ばたばたと倒れていく。
生まれた赤ん坊を間引きすることは当たり前のようになり、後世の記録にはハッキリとは残されていないが、その死肉を食ったという疑いもあった。
そんな中でも占いはやはり健在で、都ははやり病を早々と鎮め、その力を誇示した。
だが、後がいけない。
都「病は静まったのだから、もういいでしょう?」
社「そう単純なものではございませぬ。百姓も皆、我らと同じように水を飲み、作物を口にして生きておるのです。それを……」
まだ傷が癒えぬうちに、民からまたしぼりとろうとしていた。
都「だったら、また豊かな土地でももらってくればいいでしょう?」
社「また戦にゆけと申されますか?」
都「占ってやる」
社「私は行きませんよ」
都「……………………」
社「……………………」
睨み合っていると、家臣の一人が飛び込んできた。
家臣「お館様!! 町人共が……」
社「!!」
米の値段が一気に跳ね上がり、食うや食わずの者たちが手にくわや鎌を持って蜂起したのだった。
社「……ッ!!」
そら見たことかと一度、都を振り返り、部屋を出て行く。
後に残った、都「……ふん。誰のおかげで病がおさまったと思うておる。本来なら、礼を言われるところじゃ」
毒づく。
都『私はお御神崎様のお力を授かった、神の子ぞ。皆のために占ってやっておるのに!!』
つん、とふくれる。
蜂起した群衆はすぐに駆けつけた社の手勢によって、あっけなく鎮圧された。
社はこれを許そうとしたが、都は許さなかった。