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みやまよめな:65
2008.06.11 |Category …みやまよめな
御龍
1,
ある晩のこと。都は変わった夢を見る。
声「姫よ、姫よ……」
幼い都「だれ?」
声は、細く美しい男の声。
都『……社……?』
違う?
声「約束を思い出せ」
都「……約束?」
声「我(われ)がそちらにゆく前に……」
都「……息苦しい!!」
まるで水の中にいるようで、息ができない。
手足が鉛のように重たかった。
▽つづきはこちら
声「思い出せ、思い出せ……」
「思い出せ、思い出せ……」
都「何のこと!? わからないっ!!」
声「思い出せ、思い出せ……」
「思い出せ、思い出せ……」
都「そなたは何者!? 何故、私を…………」
突然、別の太い声が割り込む。
太い声「姫よ、姫よ。迎えに行くぞ。約束じゃ」
都『……また“約束”……?』
細い声「迎えに行くぞ。思い出せ」
太い声「迎えに行くぞ。七つ参りの晩に」
細い声「迎えに行くぞ」
太い声「迎えに行くぞ」
都「いやーっ!! やめてぇーっ!!!!」
はっとしてまぶたを開く。
都「………………?」
起き上がってみるともう朝。
都「はて? 今、奇妙な夢をみていたような……?」
2,
白い着物の男が社をたずねてやってくる。
しかし、門番に棒で追いやられている。
ちょうど外から戻って来た社がそれを見とがめ、声をかけた。
社「これ。その方(ほう)、私に何用か?」
男「…………………」
振り向いた男は目を患って(わずらって)いるのか、両眼共に包帯で巻いていた。
あれでは見えなかろうに……と社は小さくつぶやく。
男「我(われ)は後見の目を持つ者……」
見事なまでに真っ白な長髪だったので老人かと思えば、まだ社といくばくも変わらない若者だった。
社「うしろみ?」
男「さよう。お館様は姉様のことで悩んでおろう」
社「ああ」
ぶっきらぼうに答える。
そんなことはカンのいい者ならすぐにわかるだろう。
特別、驚くに値しない。
男「……何だ。鬼に憑かれておるのは姉だけではないとみえる」
社「!?」
『……私のことか……!!?』
見えぬハズの目で何を見ているというのか、この男は……
男「約束として、助けに参った」
社「約束?」
ジロジロと値踏みするつもりで無遠慮に眺め回す。
社『何だこの男……』
男は川にでも落ちたのか、全身からの水滴が足元を濡らしている。
そして粗末な身なりに似つかわしくない、大きな水晶球を右手に持っていた。
しかも、
社『着物の合わせが逆ではないか……』
左前になっており、これでは死人だ。
そういえば、細面で目が覆われていても美しい青年に見えるのにかかわらず、顔の色がないせいで少々不気味な印象を受ける。
男「昔……、姉の都に頼まれた」
社「何と?」 訝しむ。
それには答えず、
男「社、まずは姉の持っている骨壷を捨てなされ」
社「骨壷!!?」 さすがに驚いて声をあげる。
男「そして代わりにコレを……」
懐から古い鏡を手渡す。
社「骨壷とは何だっ!?」
男「我が迎えに行く前に……」
社「答えよっ!!」
男「約束事が成立する前に……」
社「貴様、何者!?」
男「………………」 背中を向ける。
社「待てっ!! そなた、名はっ!!?」
男「…………………………………」
社が肩をつかもうとした瞬間、男は消えてなくなった。
その場には濡れた跡だけが残る。
社「…………今のは……一体……!?」 目をこする。
『私が……姉上が……鬼に憑かれていると……?』
「…………はっ!! 笑わせるっ!! 姉上は御神崎様のお力を……」
言って黙る。
社『御神崎様……? ……鬼……? まさか……』