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レイディ・メイディ 第41話
2008.06.10 |Category …レイメイ 39-41話
第41話:動き出した影
ローゼリッタのある大陸から遥か遠く、東の海にぽっかりと浮かぶ島国・ヤマト。
その小さな島国の中に、さらに小さな小さな里があった。
氷鎖女村。
山間にひっそりと、世間から隠れるようにして存在する村に、今日も飽くことなく雪が吹雪いている。
木造の家屋に村長(むらおさ)、長老を始め、有力者たちが座している。
水を張った桶の中を占いに使用した半紙が浮かぶ。
墨で描かれた八角形の図案が水に滲みてその形を崩してゆく。
囲炉裏を囲み、沈黙を守っていた村長が重い口を億劫そうに開いた。
村長「それは確かか、おばば」
八卦見の老婆がうなずくと、村の有力者たちが不吉の予感にざわめいた。
おばば「あの者は未だ生きておる」
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村の衆「だからずっと災い続きだったのじゃな、この里は」
「ありえぬ……!」
村を横断する川がこれまでに幾度氾濫し、人口を減らしたかわからない。
降り続く異様な雨に作物は凶作、土砂崩れ。
流行り病。
あまつさえ、戦国の世にあって各地の武将から味方せよ、さもなくば滅ぼすと重ねて脅迫が届く始末。
これまで貧しいが平穏であった村の歴史は、ここ10年で様変わりしてしまっていたのである。
村の衆「このままでは我らは滅びる」
「氷鎖女に供物を捧げぬからこのようなことになったのじゃ」
「そうよ、供物を捧げなくては」
「代わりではダメか? 今更、アレを見つけるは容易ではないぞ」
「いいや、ダメだろう。印のついた子でなければ……」
「おのれ、生きていたとは」
「一族の存亡をなんと心得る」
「連れ戻せ。もう一度、新たにやり直すのじゃ」
氷鎖女祭りを!!
障子に映った無数の影が狂気を孕んで揺らめいた。
村長「おばば、きゃつめの居場所は?」
おばば「……遠いぞ」
村長「それでも引きずって来ねば、我らに道はない」
おばば「……西」
村長「責任は…………身内に取ってもらうとしよう」
村長(むらおさ)が膝をついて立ち上がる。
村長「偲(しのぶ)!! 偲をこれへ!!」
おばば「偲か。それはいい。西へ向かえば、探す苦労をそうせずとも、やがてあいまみえようぞ。ヤツラは二人で一人。そのような定めにある星よ……」
歯の抜けた間から空気を漏らして白髪の老婆は笑った。
吹き付ける風が木戸を叩き、隙間から甲高い女の悲鳴のような音を立てる。
雪は深く、生き物の気配を覆い隠す。
ひっそりと息づく村は、何かに怯えて戦慄していた。
10年前になくなった供物を探し出して、元の場所へ返さねばならない。
さもなくば……。
あれから2年。
母国の都市を出入りしている外国船に渡りをつけ、どちらの言葉にも精通している者を雇い、彼らは西の大陸に降り立っていた。
捜し歩いて、現在。
早くも彼の者の消息をつかんでいた。
初(はつ)「本当に生きていたとは……、おシズ……」
借りた宿で額を寄せ合うように車座になっているのは、東よりの使者、5名。
唯一の女性である初が右手に座っている男を思いやって視線を向けた。
偲(しのぶ)「…………」
視線を向けられたことに気づかなかったのか、相変わらず沈黙している男……偲に代わった形で、細い目をした小柄の男・冴牙(さえが)が答えた。
冴牙「ハッ。“ヒサメ”とはな。シズも愚かよな。忍びが自分の足取りがわかる名を使うとは」
貴族の館に忍び込んで手に入れた絵には、サインがあったのだ。
“ヒサメ”と。
炎座「それも一族の名をこうも堂々、披露目たるや、なんたること」
続けて苦々しい表情を作ったのは、2メートルを超える巨漢・炎座(えんざ)である。
悟六「まぁ、そう言うな。おシズは十までしか村におらなかった。忍びの認識がまだ甘かったのであろうよ。こんな果ての大陸では関係ないと思っても無理からぬ」
炎座「ま、追っ手が今更来るとは夢にも思ってはいまいがの」
悟六「そういうこった」
なだめにかかったのは、放たれた刺客の中で最年長の悟六(ごろく)だった。
初「里を……偲んでいたのやもしれませぬな」
偲「…………」
冴牙「フン、甘いな」
悟六「しかし、そのお陰で思った以上に早ぅ、見つけ出すことが出来そうではないか」
炎座「絵師となっておったとは。確かに童(わっぱ)の頃も絵はたいそうなものじゃったように記憶しておる」
絵を手にして低く唸る。
冴牙「フン。これなら探せばすぐじゃ。特技が仇となるとは、不運も極まったな」
初「偲……」
偲「…………」
花の名産地として知られるローゼリッタに彼らが行き着くのもそう遠い話ではない。