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みやまよめな:62
2008.06.10 |Category …みやまよめな
都『ギョリュウ様?』
白龍の大きな体に巻かれると不思議と息苦しさがなくなり、沈むのも止まった。
声1「…………………………」 答えない。
都『都は生きていてはならぬと父様が……』
声1「生きていて悪い者がこの世におるものか。お前を待つ者もいる。さぁ、帰れ」
都『…………………ギョリュウ様……』
泣きたくなった。
生きていて悪い者などいない……。
この言葉は今の都にとってどれほど救いになったか。
白龍は都を乗せて上へ上へと運ぶ。
▽つづきはこちら
やがて別の声が上からふってきた。今度は地を這うような野太い声だ。
声2「姫よ、姫よ。約束じゃ。勝手は許さぬ」
都『……誰?』
声1『…………!!』 動きを止める。
声2「約束、忘れてはおるまいなぁ?」
声1『……………都。やはりお前の願い、聞き届けよう。ただし…………』
2,
現在。
社は祈祷師を何人も呼び付けて、夜な夜なおかしな儀式に没頭始める。
姉も自分も何かに取り憑かれているのではないかと考えたのだ。
しかし、しばらくするとそれを邪魔するかのように都が、「弟が呪術師を装ったうさんくさい連中にたぶらかされている」として祈祷師たちを広場で処刑してしまう。
社「なぜですっ!? 私が呼んだ連中なのにっ!! 勝手に手打ちにするなどと……」
都「目を覚ましなさい、一体何を始めるつもりだったのですっ!?」
社「私も姉上も何かよくない物に取り憑かれておるのでございますっ!!」
都「そのような妄想はおやめなさい。当主の貴方がそれでどうしますか」
社「姉上、気が付きませぬか? 姉上は変わってしまわれた!! 昔は殺生など絶対になさらなかったものを!!」
都「うるさいっ!! またお前は私にとやかく言うつもりですかっ!?」
社「姉上っ!!」
当主である社が姉であり神子である都をさしおいて、おかしな連中……つまり祈祷師たちと何やら怪しげなことを始めたとという噂は瞬く間に広がり、追って都が祈祷師たちを惨殺した事件も人々の間を駆け巡った。
それでも社は祈祷師や呪術師などを集めるのをやめなかった。
都はあの新しい城に移り住み、贅沢三昧。
きらびやかな生活を思うがままに楽しむ。
おかげで民の暮らしは傾く一方。
まだ年若く、周囲に政(まつりごと)の得意な人材もいなかった当主・社はその穴を埋めるために他の土地を襲わせて金品や食料を奪うしかなくなってしまい、たった数年のうちに大規模な夜盗のようになっていった。
このままではいけないと思いつつ、弟のたしなめる声は姉に届かない。
都「民? 民のことなぞ、なぜ私が考えなければならないのです?」
今宵も酒によって赤い顔。
社「しかし姉上。今年は秋の実りも少なく……姉上がかように毎晩、酒をあおって騒がれている間にも民は飢えているのです。少しはつつしんでいただかないと……」
「それに……」
部屋に並べられた珍品に目をやり、
社「このような役にも立たぬ物を集めて……」
その一つを手にとる。
都「小言なぞ、聞きとうない」
社「姉上っ!!」
都「何だ、社。そなたは私を好いておるのであろ?」
背中からおぶさるようにして組みつく。
社「!!」
酒にしこたま酔った体は熱く、衣を通して社の背にも伝わったくる。
肩越しに覗いてくる頬は薄紅色に染まって、女の香りを漂わせていた。
社「……ッ」 目をそらす。
都「……ふふっ」
挑発するように顔の縁を指でなぞる。
社「……た……戯れはおよし下さい」
都「無理をして……」
するりと着物の重ね合わせた部分から白い手を入れた。
社「……ッ!!? 姉上っっ!!!」
素肌の胸に忍んできた手にドキッとするが、ここはこらえて無理に引き離す。
都「おや? どうしたのです?」
意地悪く目を細める。
社『……違う……姉上じゃ……ない……』
その顔を両眼に映して思う。
社「失礼しますっ!!」
部屋を後にする。