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みやまよめな:59
2008.06.08 |Category …みやまよめな
外で聞き耳たてていた二人もあわててその場から逃げ出す。
庭先まで逃げてきた椿と万次丸。
椿「人形から血だって……怖いこと言うねぇ、社様……」
万次「……大丈夫かね?」
頭の横に指でクルクル渦巻きを示してみせる。
つまり、頭の方は大丈夫か?ということ。
椿「コラッ!!」
軽くにらまれるりをさらりとかわして、
万次「……なんだかおっかないコトになってきたなぁ。こうなっら、おヒマもらいたいところだけど……」(※おヒマをもらう→お仕事辞めさせてもらう)
椿「えっ!? 万次、辞めちまうのかいっ!?」
万次「そうできればな~って話よ。でもおヒマもらっても他に行くトコないんで、困っちまうんだよな」
椿「……………………」
万次「なぁ、椿ちゃん」
椿「うん?」
万次「冗談はともかくさぁ。鬼とか人形から血とか気味悪いと思わねぇ?」
椿「そりゃあ……」
万次「……ここだけの話……」 声をひそめ、
「都様もアレだしさぁ」
椿「…………………」
▽つづきはこちら
万次「……一体、“御神崎様”って何なのよ?」
椿「……ばっちゃんの話じゃ、“御神崎様”ってぇのは山神様で、この土地とそれを統べる一族を守ってくれるってよ?」
万次「……土地神様だろ? それは知ってる。で、七つ参りってーのは、この家の女子が人形と一晩一緒に過ごして命を吹き込んで、今後の災厄を代わりに引き受けてくれる身代わりを作る儀式だろ?」
椿「そうだよ」
二人、しばし黙る。ややあって、
万次「……確かに土地は守られているよな……」 つぶやく。
椿「何だって?」
よく聞こえなかったのか、耳に手をあてがう。
万次「なんでもない。独り言」
椿「……??」
万次『領地も広がってこの家だって安泰。それは御神崎様のおかげ……。じゃあさっき社様が身代わり人形に異変があったってのもあながち冗談なんかじゃねーかもなぁ……』
3,
翌日のこと。
社は朝起きて、玄米がいないことに気づいた。
社「玄米? 玄米?」
エサの桶を持って庭をウロついてみる。
いつもなら声を聞けば、擦り切れてしまうのではないかと心配になるほど、尾を振って飛びついてくるはずの愛犬が見当たらない。
社「……玄米?」
立ち尽くす。
社『はて? お堂に置いてきちゃったかな? いやでも、私が連れかえられたということは一緒に玄米も戻っているハズ……』
迷子になるような馬鹿な犬でもない。
きびすを返し、
社「万次」
門の前を掃除していた、万次「あ、おはようごぜぇます」
社「玄米は?」
万次「………………………」 黙る。
社「……玄米……」
万次「……あ~……玄米……玄米……ね」
社「どうした?」
万次「ん~……」
社「万次っ!!」
万次「社様には言いたくなかったんですけど……まぁ……教えないワケにもいかないし……」
独り言のようにつぶやいて頭をかく。
社「どうしたというのだ?」
嫌な予感……
また黙ってしまった万次につれられ、家の裏庭。
そこには小さな墓。
社「……玄米?」
万次「……………」
社「何だレはっ!?」
怒鳴って墓を指さす。
万次「……玄米です」
社「コレが玄米だとっ!?」
万次「……ええ……」
社「いつだ!?」
万次「……昨日……」
社「き……昨日?」
それは、社が気を失って大騒ぎさせた日のことだ。
社「……そ……そうか。歳だったからなぁ」
がっくりうなだれる。