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みやまよめな:56
2008.06.07 |Category …みやまよめな
朝食をとったあと、社は犬を連れて出掛けようとする。
椿「どこにゆかれるのですか?」
社「……何か用か?」
うるさいな、という表情。
椿「いえ……用ってワケじゃ……」
社「いちいちオマエに断らないと私は出掛けてはいけないのかな?」
椿「そういうワケじゃ……」 ションボリ。
社「……………御神崎様のお堂だ」
結局、ぶっきらぼうに答える。
▽つづきはこちら
社『……ああ、ダメだ。私はイライラするとすぐに椿にあたってしまう……』
当たる原因には椿がその場の空気を読まずに声をかけてくるというのが大きくあったが、それにしても社はまだ精神的に大人の男になりきれてはいなかった。
こんなとき、自分を制御しきれずに醜く荒れる父が思い出されてやりきれなくなる。
自分は父とは違うのだと思いながら、どこかでやはり似ていることを意識してしまう。
椿「御神崎様のお堂!!? ダメですよっ!! あすこは女子しか行ったらいけないってばっちゃんが…………!!」
社「案ずるな。少々、確かめたいことがあるだけだ」
椿「ダメですよ。約束破ったら、いけないモンが出るって……」
社「……いけないモン……? 何だ、ソレは?」
椿「知りませんよ、そんなの……。でもそうに言ってたんですもん……」
椿の祖母は一昨年亡くなった。だから、それについてももう詳しくは聞くことができない。しかし孫の椿に寝物語として何度も聞かせた話だ。「ばっちゃん」もよくは知らなかったのかもしれない。
社「……………………………………」
ズキン……と背中が痛んだ。あの、古傷が。
社『そうだ、それを確かめに行きたいのだ』
この間、かけおちした山道で鬼を呼んだら突風が吹いた。
アレはその、“いけないモノ”……すなわち鬼の返答ではなかったかと思い、怖くなって逃げ出してきた。
そのときに頭に浮かんだのが、七つ参りの夜のこと。
社「わかったよ、椿。鬼は怖いからやめておこう」
もちろん、そんな気はない。ますますもって確かめたい衝動に駆られる。
その話からは離れ、椿が忘れたであろう昼下がりになって改めて出て行く。
社「…………………………」
はたと立ち止まり、
社「……もしも……。もしもということもあるしな。うん。玄米とゆこう……」
実は一人で行くのが怖くなった。
犬の玄米を連れ立って、山を登り、赤い鳥居が99個並んだ下をくぐる。
社「結構あるな……」
ふぅ、と息をつく。
鳥居を一つ、また一つとくぐっていくと臓の腑が落ち着かないような気持ちになる。
社「何、大丈夫さ」
言い知れぬ不安をまぎらわすために独り言は自然と多くなった。
最後の鳥居の前に立ったとき…………
社「…………………戻ろうか? 玄米……」
……足が震えた。
背中の傷が強くうずいた。
玄米「わう?」
主人を見上げる。
社「……いや……なんでもない……」
最後の鳥居をくぐる。
開けた土地の真ん中にぽつんと建つ、古いお堂。
そっと扉を開いて覗くと、中にはおびただしい数の人形たち。
社「……気味が悪いな」
これは確か、厄よけに使われる身代わり人形だ。
社「姉上の人形は……っと……」
比較的新しい都の身代わり人形はすぐに見つけることができた。
声「誰ぞおらんか、誰ぞおらんか」
社「!?」
どこからともなく、低い声がした。
社「何奴っ!?」
人形に伸ばした手を引っ込めて、くるりと振り返る。
だが、そこには人影はない。
社「……気のせいか……」
また人形に注意を向ける。
声「誰ぞおらぬか、誰ぞおらぬか」
社「ッ!?」
『……やはり聞こえる……』
身の危険を感じてお堂の中に入り込む。