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みやまよめな:53
2008.06.05 |Category …みやまよめな
言われて左の者から宝物を差し出し、それを手に入れるまでの冒険譚を話して聞かせる。
求婚者たち「暴れるギョリュウに矢を射掛け、ひるんだ隙に刀で切りつけたのだ!!」
「鬼は怒り狂って襲いかかってきた!! 連れていた百人の兵は皆やられてしまったのだが、ワシは……」
「天女が降りるという沼に待ち伏せて……」
披露される宝の数々と自慢話は、都の護衛と女官たちを驚愕させていた。
都「……………………」
しかし都は扇の後ろで小馬鹿にしたように小さく笑っている。
社「…………?」
その様子を見て、目をしばたかせる。
▽つづきはこちら
全てが終わって見計らったように、真面目ぶる都。
都「私がこのような無理を皆様にお願い申し上げたのは、勇気を試させていただこうと思ったからでございます。私はこの先視(さきみ)の力で周囲から狙われることもありまして……そのため、殿方には守って下さるようなたくましい方をと思っていのでございます」
社『お守りならば、私がおる……!!』 不服。
求婚者たち、一斉に「それならば私が……!!」
都「……その前に、宝物を側で見せていただいてもよろしいかしら?」
女官に指示して、手元に集められた物を一つ一つ視ていく。
一緒に覗き込む社。
社「……こんな物が本当にあったなんて……」
天女の羽衣と称された美しい絹を手に取る。
まさか本当に持ってくるとは思わなかった。
しかしここにこうしてあるということは……
社『嫌だ!! 姉上っ!! 嫁になぞ行かないでくれ……っ!!』
都の方は、ギョリュウの水晶を手に取る。
都「……ふん……」
持ってきた者の方を向き、
都「見事な水晶です」
求婚者1「それはもう!!」
都「……ギョリュウの水晶はどんな傷をも治癒する力があるといいますね」
求婚者1「?」
都「その力がいかなるものか……」
求婚者1「……それは……」
都「見てみたいと思います」
求婚者1「あの……」
都「どう致しました?」
求婚者1「誰ぞか傷など負わねば見せられぬものですからな……ははははっ」
都「では、今、ここで……」
扇を閉じて、合図を送る。
やがて兵に捕らえられた罪人が連れ出され……。
都「社」
社「!!」
『……まさか……』
都「…………やって」
やはり扇で合図。
求婚者1「ッ!!」
ごくりと唾を飲み込む。
社「……はい」
立ち上がり、刀を抜く。
罪人「ひっ!? 何をすんだっ!? やっ、やめてくれ」
手足を押さえ付けられる。
社「…………悪いな、姉上の命令だ」
刃を罪人の腹にあて、横に引く。
罪人「ぎゃあぁぁっ!!!」
手を離されるが、逃げるどころではない。
求婚者たち「うっ!!」
目をそむける求婚者や巫女たち。
都「さぁ、大丈夫ですよ、恐れないで」
側に自ら歩み寄り、罪人に優しく語りかける。
罪人「み……みみ神子様ぁ~……た……助け…………」
飛び出した内臓を必死に押さえる罪人。
都「可哀想に。けれど、このギョリュウの水晶球があれば治りますからね」
手の中の水晶をかかげる。
罪人「うう…………うあ……」
罪人、こと切れる。
都「あら、まぁ」
社を見上げる。
社「おや、まぁ」
都を見下ろす。
二人、目をあわせて不気味に美しく笑む。