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みやまよめな:49
2008.06.04 |Category …みやまよめな
社『……くっ!!』
都「もしや、おまえ、妬いておるのかえ?」
社「……べ……別に……」
都「あははっ!! あっはははははははっ!!!」
扇子で口元を隠して大笑い。
以前なら、決してこんな笑いかたはしなかった。
……都は、変わってしまっていた……。
社「…………………」
急に笑いを引っ込めて、
都「社」
▽つづきはこちら
社「……はっ」
顔を上げる。
都「この晦日(みそか)の晩の日に殿方たちが集まるようになっています」
社「?」
都「私が貢ぎ物を持って参れと条件をつけたのです」
社「……条件?」
都「それを見事果たした男と一緒になると……」
社「!!」
『そんな……』
都「……………」
恐る恐る、
社「……それは……どのような……?」
都「…………気になるか?」
またしてもニヤリと笑う。
社「…………いえ……あの……」
目をそらす。
社『私がその条件を満たしたら…………』
また姉の白い顔を瞳に映す。
社『今度こそ、本当に私と一緒になってくれるのだろうか……。私の気持ちを戯れ言で済まさずに……』
都「ギョリュウの持つ水晶玉……」
ぽつり。
社「……えっ!?」
聞き返す。
都「天女の羽衣。金のウグイス。鬼の角。七色に光る鯉。枯れ木に花を咲かせる灰。うちでの小槌……あと……何だったかな?」
社「……………」
あっけにとられる。
都「どうです? 社も挑戦してみる?」
社「……いいえ……」
呆然しとながら、頭を左右にふる。
社「……なんだ……その気がないのにからかったのですね。お人が悪い」 苦笑。
『でも、よかった』
ホッとため息。
都「何。本当にそれを持って来た者がおれば、私は嫁に行きますよ」
意地悪く笑う。
社「なにをおっしゃられます。それらはみな、伝説上の物ばかりではございませぬか。今頃、殿方たちは困っておりますぞ」
都「うふふっ。ですが、必ず持って来て貴女を嫁に連れて行きますと皆言っていましたよ」
社「……はぁ……」
都「さてはて。どんなまがい物で私を笑わせてくれるのか」
社「……………………」
都「楽しみですね、社?」
社「……はぁ……まぁ……」
あいまいに返事を濁す。
部屋を出て、
社『他人の気持ちをもてあそぶようなことは決してしない方だったのに……』
廊下を歩く。
殿方は無理難題を押し付けられて、今(こん)晦日の晩、どのように申し開きするつもりなのであろうか?
都は楽しみにしているようであったが、社としては他人事とは思えない。
自分も笑われている中に含まれている気がしてならなかった。
社『あの可憐でお優しい姉上はどこへいってしまったのか……』
「はぁ~……」
自然にため息が漏れる。
2,
なんとなくの足取りで、“みやまよめな”を育てている庭の一角に足を延ばす。
ちょうど今が盛りで白や青紫の花を今年も力強く咲き誇っていた。
社「…………」
ちょん、と指先で花をつつく。
揺れるみやまよめな。
社「ひかえめだが、清楚で愛らしい花だ」
珍しく、穏やかな微笑み。