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みやまよめな:46
2008.06.04 |Category …みやまよめな
父「………はっ。………何を申すかと思えば……」
手元の杯を飲み干す。
社「……なりませんか?」
突然、怒鳴り、
父「たわけっ!!!!」
杯を社の顔にぶつける。
社「…………………」
立ち上がった父をゆっくり見上げる。
▽つづきはこちら
父「何を考えておるのじゃ、貴様はっ!? 都が欲しいじゃと!? 正気かっ!? 姉弟(きょうだい)でっ!!!!」
社「……いつだったか……」
父「……うん!?」
社「父上は私にこう申されました」
父「?」
社「お前は都に惚れて(ほれて)おるのかと」
父「……………………………」
社「恐れながら…………その通りでございます」
父「…………馬鹿なっ」
吐き捨てる。
社「父上さえこれを許し、姉上に命令下されば、私はそれでいいのです……」
『何も、貴方を殺さずとも……』
「貴方の命(めい)ならば、姉も従ってくれることでしょう」
(※命は命令のこと)
『姉上が手に入りさえすれば私はそれで……』
都が納得しなくとも、父が命令すれば聞くハズだ。
……これまでのように。
今はきっとただ気が立っているだけ。
姉が自分を男として見てくれなくとも父がそうと決めてくれるなら、構いやしない。
要は、妻にできればこちらのものなのだから。
父「ならん、ならん、ならーんっ!!! どこにそのような夫婦(めおと)がおるかっ!? ええ~いっ!! もう話はしまいじゃっ!! 貴様の嫁はわしが決めるっ!! それまで頭を冷やしておとなしくしておけっ!!」
社「………………やはり…………いけませんか……」
父「当たり前じゃっ!!!! お前は今後、都の館の出入りを禁ずるっ!!」
社「…………………………」
父「まったく。……姉も姉なら弟も弟だったとは…………とんでもない姉弟(きょうだい)じゃな」
毒づく。
社「……それは……」
視線を落とす。
社『“姉も姉なら”、…………“弟も弟”?』
その言葉にピクリと反応。
父「何じゃ!! 早く出て行けっ!!」
キッと顔を上げ、
社「それは父上が悪いのです。父上があんまり姉上をなじるから…………私は姉上を守らねばならなかった!!」
そっと脇に外しておいていた刀に手をかける。
父「何を言うかっ!!?」
社「幼少の頃より私にはっ!! ただ一人の女性を守ることが義務づけられていたようなものだっ!! その守り続けた女にっ!! 一人の男子(だんし)として、気持ちを寄せるは当然の結果ではございませぬかっ!!!」
そう、しかもその女が可憐で儚く(はかなく)、そして自分だけを頼っていたとしたら……
二人だけの世界で生きてきて……
社「………ッ!!」
指で鍔(つば)を押し上げ、鞘(さや)から刃がチラリと覗く。
父「そのような話っ!! 聞きとうないわっ!! 黙れ黙れっ!!」
社「父上さえ、都をはねつけずにっ!! 普通に父親として、娘を守る者としてっ!! 接してくれていたらっ!! 父親としての役割を果たしてくれていたのならっ!! 私とてこんな役に回らなくてよかったのだっ!!! そしたら…………そしたら私だって…………もっと……もっと、普通にいられたのにっ!!」
ただ姉を尊敬し敬う(うやまう)だけの、ごくありきたりの弟としていられたハズだ。
社『たった一晩、女を抱くためのだけに実の父を手にかけなくても済んだのにっ!!!』
ありきたりの自分でいられたのなら、きっと当たり前に他の女に恋して……
こんなにみじめで愚かしく、悲しい想いをせずにすんだハズだった。
社『そんな、こんなバカげたことのために、己(おれ)はっっ!!!』
すばやく立ち上がり、抜刀(ばっとう)。
同時に白い障子に血しぶき。
それに混じって、少しの涙が舞散る。
社「………………はぁっ!! はぁっ!! はぁっ!!!」
ぐいっと袖で目の辺りをふき取る。
社『…………………………………………やった…………』
血の海に、うつ伏せで倒れた父を足で転がす。
見開いた瞳はもう、何も映してはいない。
…………即死だった。
社「…………………………………」
『…………………父上…………』