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みやまよめな:45
2008.06.03 |Category …みやまよめな
しかし、彼女の口から殺めるなどという言葉を聞きたくはなかった。
彼女はいついかなるときも慈悲の心を深く持ち、それゆえに今まで自分の力を呪ってきたのではなかったか……。
そして、社はそんな彼女が好きだった。
優しく清らかでもろい……。
自分がいなければ、ただ泣くばかりの姉を守るというのが彼の存在意義と言ってもよかった。
だから言ってしまえば、彼女が悲しめば悲しむほど、追い詰められれば追い詰められる程、社にとっては歪んだ悦びの糧となっていたのである。
都「そなたは何かあればいつも呼び付けてくれと言ったではないか」
社「ですが……」
▽つづきはこちら
都「……社……」
社の顔の縁を細い指がなぞる。
社「……ッ!!」
ぞくっと肌が泡立つ。
都「私は自由になりたい…………誰かのために占いするのはもうイヤ……」
そう、誰かのためでなく、今度は…………
社「………………」
都「さぁ、答えておくれ、社。私の言うことを聞いておくれか?」
社「………………」
冷たい汗が落ちる。
一体、姉はどうしてしまったのか。
社『……いや……むしろこうならない方がおかしかったのやもしれぬ……。姉上は、人を憎まぬようにと努力してきた……』
それがきっと、愛する男を奪われて限界に達したのに違いない。
社『だがしかし……それにしたって……』
この変わりようは如何に?(いかに)
都「どうした、社?」
社「…………………」
都「言うことを聞いてくれるのならば、お前の望みもかなえよう」
社「……は?」
下に落としていた瞳を上げる。
都「私が欲しかろう?」
妖しく口元に微笑。
社「ッ!!」
都「一晩…………………」
ぽつり、と。
社「………………………」
都「一晩、お前の好きにさせてやる…………」
顔を寄せて、社の唇を軽く咬む(かむ)。
社「ッ!!!!」 硬直。
都「……続きは、“事”が済んでから……」
耳元に甘い吐息と共に吐き出す言葉。
社「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
目は大きく見開かれ、自然、手は畳の草を引っかいていた……。
4,
一晩限り。
たったそれだけのために社は動いてしまった。
母屋。夜中の父の部屋。
父「何じゃ、社。改まって話とは?」
しかもこんな夜更けに。
社「……は。私もそろそろ妻を娶りたいと考えまして……」
父「!! そうか!! ようやくその気になってくれたか!!」
社「………………………」
父「いや~、お前は姉、姉とそればかりだから心配したぞ。16にもなっていつまでもそれではなぁ。可愛い嫁御(よめご)でももらえば少しは落ち着くだろうと思っていたが、見合い話も断るでな。どうしたものかと思っていたが……」
社「………はい」
父「それで? そのように自分から言ってくるとなると、意中の女子(おなご)でもおるのであろう?」
社「…………はい。それで父上にぜひにと頼みに参ったのでございます」
父「まさか椿ではあるまいなぁ?」
社「…………………………」
『……………椿…………』
後ろめたさを追いやるように、頭を振る。
社「はい、父上…………」 ここでは否定の意味。
父「では誰じゃ? わしの知っておる者か?」
社「…………都」
父「……?」 きょとん。
目をしばたかせ、
父「何じゃて?」
聞き返す。
社「都が欲しゅうございます、父上」
父「都とはどの都じゃ?」
怒りを抑え、目を細めた。
しかし、きっぱりと
社「貴方の娘でございます」