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みやまよめな:42
2008.06.03 |Category …みやまよめな
2,
都の館。部屋の前。
社「………大丈夫ですか、姉上?」
刺激しないよう、なるべく穏やかな声で障子越しに問いかける。
本当はまだ顔を合わせたくはなかったが、状況が状況だ。
そうも言ってはいられない。
都「社? …………ええ、私はもう大丈夫ですよ。心配ありがとう」
社「……?」
妙に落ち着きのある声が少々気になったが、それは無理に平常心を保とうとしているのだと思った。
▽つづきはこちら
社「……………」
「その………」
都「……ん?」
社「先日はとんだ…………………ご無礼を…………」
都「…………………………」
社「………もう………あのようなことは金輪際(こんりんざい)ございませんので………」
都「…………………………」
社「もし………もしも何かございますれば、いつでもこの社をお呼び下さいませ」
都「……ありがとう……。お前は優しい子ですね……」
社「!!」
思ってもみなかった言葉に思わず顔を上げる。
都「以前、私がお前に投げ付けた言葉も取り消しましょう。私も悪かったと思っていたのです。気が立っていた………………許しておくれ」
社「!!」
「め……めっそうもございません」
嬉し涙がわきあがった。
あわてて、目をこする。
二度、泣いてはいけない。
障子越しに写る影。
都は…………
都は言葉の穏やかさと裏腹に、狂喜の笑みをその美しい顔にはりつかせて首を抱いていた。
着物の袖を血にまみれさせた彼女の平常心など、どこにもない……
3,
あれから。
都は猛の首から離れない。
部屋に置き、一人話しかけては笑ったり、照れてみたり、まるで生きている猛と話しているようにふるまっていた。
巫女たちは気味悪がり、神子様は気が触れたのだと噂した。
あの鬼気迫る姿を見れば誰でもそう思ったであろう。
それほど都は尋常逸していたのだ。
それは父のもとにも報告として耳に入り、さすがに後悔の念を表している。
父「まさかこれほどあやつに執着しておったとはな。引き離したはマズかったか……。占いをせんようになってしまったわ」
また暴力で占いをさせればよいと思っていたが、決意は堅く、いくら蹴られても殴られても都は不気味に微笑むばかりで、言葉を発しようともしなかった。
社「……今になってそのようなことを申されても仕方ありますまい。ともかく、あの首を捨てさせた方がよろしいかと」
父「またとりあげるのか? それではますますスネてしまうぞ」
社「だったら、ああやっていつまでも生首を姉上の側に置いておけとおっしゃるのですかっ!? 異常ですぞっ!?」
父「わかっておる、わかっておる」
社「こうなっては、首も何も思い起こさせる物を全て処分し、一刻も早く忘れさせることですな」
父「……忘れさせる……か」
社「ええ、それが一番でしょう」
父「ふむ。それもそうじゃの。どれ、都には遅まきながら、また婿殿を探すとするか」
社「……え?」
父「男を失のうたのだから、新しい男を与えればよい。……今度はちゃんとわしの目の行き届く、素性もしっかりとした男じゃ。さもなくば、頭の悪い、はいはいと言っているだけの見てくれだけいい男でも置いておけばよかろう」
社「……!? そんな……」
父「? どうした、社?」
社「や、あ、いえ……あの……。姉上はあのお力ゆえに恐れられてしまっているのではないか……と」
父「何。諸外国に嫁にやるワケではないわ。むざむざと占い姫を相手にやることもないからな。都には出て行ってもらうと困る」
社「では……」
父「わしの信用のおける家臣にくれてやるか、都の館に遊び男でも放りこんでおくか」
社「……!!」
父「ともかく、あの首を何とかせねばな。社、お前が取って来てくれるか?」
社「お断り致します!! 姉上に恨まれるのは御免だ」