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みやまよめな:40
2008.06.02 |Category …みやまよめな
4,
部屋に何とか戻って来たが、寝ることもできず、惨めな失恋の痛手をかみしめるばかり。
夜が明けてもただぼんやりと過ごすだけで、気力も沸かない。
猛のことを確認しに行かねばと思いつつ、それすらおっくうで腰が上がらない。
都のはだけた胸を思い出しては、ため息。
蔑んだ目を思い出しては、ため息。
社『……あんなことになって…………これから、どうやって顔を合わせたらいいんだ……』
「社の、ばか」
自分をののしってみる。
けれど、事態はもちろん変わりようもない。
▽つづきはこちら
唯一救いなのは、こちらから出向かなければ、都には会うことはないということだ。
そうやって、数日が過ぎる。
椿が何度もなぐさめに訪れ、外に誘い出そうとするが、事情も知らない彼女にもなるべくなら顔を突き合わせたくはない。
一度は一緒になろうと思った矢先、こんなことをしてしまって、合わせる顔がないと言った方が早いか。
姉にフラれたからといって、今更、椿に甘えるワケにはいかない。
社『いや……それより何より……』
『きっと、軽蔑(けいべつ)される……』
それが怖い。
ひざを抱えて、そこに顔をうずめる。
椿「社様~、入りますよ~?」
返事も待たず、また椿がやってきた。
だが、返事は返さない。
椿「ばっちゃんがおはぎ作ったんですよ。食べますよねぇ?」
社「……………………………」
椿「……………………………」
無視されてガッカリの椿。
椿「……じゃ、ここにお茶と一緒に置いておきますから、食べて下さいね」
盆ごと置いて、立ち去ろうとする。
椿「……あら?」
珍しい物を見つけて、ふいに立ち止まる。
椿「これ、黒百合じゃないですかっ!? こんな季節にどうなさったんですかぁっ!?」
しおれて小さくなった黒百合が、文机の上に放置されていたのに目を留めた。
社「……………………」
ゆっくりと振り向く。
椿「夏の花なのに……」
つまみあげてしげしげと眺める。
ちなみに今は山茶花も咲き始めた霜月。
社「夏の花なのか……?」
思わず口にする。
椿「そーですよぉ。だからビックリしちゃって」
社「そういえば……お前は花に詳しかったね」
椿「やー、そんなでもないですけど……」 頭をかく。
社「黒百合は……どんな意味があるんだい?」
椿「えっと…………確か……えっと……」
社「………………」
椿「えっと…………あ、そーだ!! “恋”ですよっ!!」
ポンと手を打つ。
椿「想いを込めた黒百合を好きな人の近くに人知れず置くと、送り主が誰だかわかんなくても、その花を相手が手にしたら、その二人は必ず結ばれるんだそうですよ!!」
社「人知れず側に置く……?」
そこへ椿の祖母が洗濯物を持って通りかかり、
祖母「あとは“呪い”だよ、社様」
顔だけつきだして、ぶっきらぼうに言うとさっさといなくなってしまう。
社「!?」
「“恋”と“呪い”!?」
椿「やーだ、ばっちゃん!! 怖いこと言うんだからぁ~」
社「呪い……」
椿「気にしないで下さいね? 社様。ただの花言葉なんだから」
社「……あ……ああ……」
上の空で返答をした、ちょうど、そのときだ。
猛が父によって首を落とされたと聞かされたのは……。