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みやまよめな:44
2008.06.03 |Category …みやまよめな
社「何かあったのですか?」
逆に聞き返す。
都「…………………」
一度うつむき、また顔をあげる。
都「近頃、この男子禁制の館にいく人もの男共が出入りするようになったのです……」
社「それは……」
父の策略だ。
都「父の差し金ということはわかっています。通行書まで父から出ているようだし、私も父様のお考えなのなら……と、ちゃんと酒の相手もつとめ、お話しもしております」
社「……………………」
どうやら、事件のことは知らない様子の都。
その件に関しては何も口に上らない。
社『……そうだ、それでいい……』
▽つづきはこちら
都「けれど、私にはその気がありません」
社「そ……そうですか」 ホッ。
都「なのに、来る男たちは私をいかがわしい目で眺め回して……」
社「……姉上」
そっと両肩に手を置こうとしたが、自分は前科があるのだったとすんでで踏みとどまる。
しかし、都の方からしなだれかかってきてしまう。
都「社……、私は父様が恐ろしい。私は父様の何なのか……」
社「だ……大丈夫でございます。社が……ついておりますゆえ」
その細く頼りない体を抱き締めたい衝動につき動かれそうになり、ぐっとたえる。
今度同じ過ちを犯してしまったら、絶対に許してもらえなくなってしまう。
それだけは避けねばならなかった。
社『……ああ、姉上……』
やっと以前のように自分だけが頼りな関係に戻れたというのに、その先はないということがハッキリさせられてしまった。
二人は姉弟以外の何ものでもないと。
社『このままこうしていたい……けど、そしたらまた……』
理性を失ってしまいそうだ。
社「姉上、お気を確かに」
肩をつかんで引き離す。
都「……社……」
濡れた瞳で見上げてくる。
社「……………………」 ドキ……
都「……………………………………父様を……………………………」
赤い唇が小さく動く。
社「……?」
都「…………………………………………………………殺して」
社「!!?」
さっと顔色が変わる。
都「………………………………」
社「……………あっ……………姉上っ…………そっ…………それは………?」
にわかに震え出す。
都「……父様は昔、都を嫌いとうないと言っていた……」
社「……は……はぁ……」
酒によった勢いで勝手なことをわめいていたことがあったと思い出す。
都「私も父様が好きです」
社「……?」
都「父様がこれ以上、都が嫌いになったら可哀想であろう? 私も父様を嫌いたくはないし………さすれば…………………………」
一度、まぶたをおろし、
都「………………………………なぁ? 社?」
ギョロリと大きな目玉を再び社に向ける。
社「……………………………あ…………ね…………うえ?」
心の臓(しんのぞう)が大きく跳ね上がった。
臓腑(ぞうふ)がつかまれたような不快感……。
それは先程のときめきなどとは程遠い……………………………悪寒だった。
社『……き……気のせい…………か? 目が……………?』
右の目だけが………………………獣のように、怪しく光って見えた……。
嫌な汗が背中を濡らす。
都「社……」
真っ白な手を、長く細い指を、社の顔にからませる。
社「!!」
我に返る。
都「父様を殺めて(あやめて)くれるか?」
社「おっ、お待ち下さい、姉上!! 早まってはなりませぬ……っ!! 今、姉上はきっと気がたっておられるのですっ。ですから……」
都「なんだ、お前は私がいつまでも父様に脅えて暮らせばそれで満足かえ?」
社「そうは申しておりません、しかしっ!!」