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みやまよめな:51
2008.06.05 |Category …みやまよめな
社「…………うん……。そうだな……」
考えてすぐに思い直す。
社『そういえば……変だ……』
怯えた犬を見つめていると、また“可愛い”の感情がゆっくり戻って来た。
今の、急激な怒りの感情は何であったのか。
それが過ぎるとまた元の自分に戻る。
社「そうだ。万次の言うとおりだ。私はどうかしていた……」
しゃがんで手を伸ばす。
社「許しておくれ、玄米」
玄米「くぅ~ん」
恐れを見せながらも少しずつ寄ってきて、今度は差し出された手をナメる。
万次「ははっ。よかった。仲直りできたようですね」
社「うん……すまなかった。万次のおかげだ」
万次「いやいや」
頭をかく。
万次『しかし、ホントに変だな、この姉弟……』
いぶかしむ目を細める。
▽つづきはこちら
社「すまなかったな、玄米。お前が私を吠えて咬んだのは、何か思ってのことだったかもしれないな……」
首を抱いて、頬を寄せる。
玄米「バウ、ワウッ!!」
社「ん? 何だ? 何が言いたい? ……私も犬の言葉がわかればよいのだが、そうもゆかぬしな」
毛の柔らかさと体温の暖かさに安心したように、顔の険も消えてゆく。
万次「………………」
腕を組んでその様子を見下げている。
万次『……やっと……いつもの社様に戻ったか。……それにしても……』
社「玄米と散歩に出てくる」
万次「ええっ!? 今戻ったばかりで……無理はされない方が……。戦から戻られたばかりでしょうに!?」
社「疲れ? 疲れなど感じておらぬ。体力には自信があるでな」
万次「自信があるって……そういう問題じゃ……」
社「行くぞ、玄米!!」
玄米の綱もつけずに歩きだす。犬が後を追う。
万次「…………………」
首をかしげる。
外を歩きつつ、
社「私がおかしかったから、玄米が注意してくれたのだな?」
玄米「ワンワンッ!!」
社「そうだな……気をつけねば……」
『そうだ……私は前から少しおかしかったんだ』
ふいに戦でのことを思い出す。
戦場で血の匂いを甘く感じることがある。
社「……………………」
思い出して、何となく背中に手をまわし、かきむしる。
記憶を逆上って何年か前に都とたった1日だけのかけおちをしたことも思い出す。
社「…………………」
「……そうだ。なぜ忘れていたのだろう……あのときも私は……山賊を殺したのは私だ……私がやったのに……」
足を止める。
ずっと記憶の奥底に封印されていた記憶。
気が付けば、辺りはむごたらしい死体が散らかっていた。
ちょうど、都に想いを寄せる者たちが、次々と惨殺されるという坂道で。
社「賊は私が討ったのだ。しかし……」
『私か? あの坂道で次々と姉上に恋情を抱く者たちを葬ったのは……?』
「……違う……」
『確かに、父が姉上に男をくれてやろうとしたときに、その男共を討ったのは私だ。それはあの山道の物の怪の噂を思い出して……真似をしただけで……』
「だが……」
『ああ……あのかけおちの日の記憶がない……。ひょっとして、物の怪の正体は私なのやも……?』
いつの間にか頭を抱えてしゃがみこむ。
玄米「くぅ~ん?」
鼻面をこすりつけてくる。
社「!!」
それに気が付き、安心させるように頭をなでる。
社「そうだな、あの坂に行ってみよう」
『今、行ったところで何があるワケでもないが……』
玄米「……?」
社「行くぞ、玄米っ!!」 唐突に駆け出す。
玄米「ワンワンッ!!」 ついていく。