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みやまよめな:55
2008.06.06 |Category …みやまよめな
社「姉上、お待ち下さいっ!! あの者は罪人では……」
都「当たり前です。かような錦を罪人になど与えるものですか」
社「……姉上……」
巫女「お……お許し下さい、お許し下さい都様……」
都「さぁ、見せておくれ!! 天女のように、天に上がってみせておくれ!!」
求婚者3「お待ちを、神子姫!! アレは……アレはッ!!」
都「ホラッ!! 早よぅ!!」
巫女「!!」
足が震える。
巫女は恐怖の中で思い出していた。
世話になったというその意味を。
そう、彼女こそが社に都の動向を漏らしていた巫女だったのだ。
そして猛は死に追いやられた。
巫女『……都様は…………ご承知なのだ……………何もかも……』
絶望が全身の血を冷たくした。
▽つづきはこちら
社も同じく、そのことに気づき、
社「待て!! 待っておれっ!!」
さすがに良心がとがめて走りだす。
巫女「そうだ……神子様は先見の瞳……。知らぬことなど何もない……」
『私が猛殿との密会を社様に告げ口したことも……。社様に頼まれてその後も見張っていたことも……。気に入られたくてそうしていたことも……』
最上階の屋根まで到着した社、裸足で瓦の上を走る。
社「待てェッ!! 行くなっ!!!」
巫女『……私が社様を強く想い慕っていたことも……』
ときどき転んですべりながら、こちらに駆けてくる社の姿を目に映す。
社「逝くなぁーっ!!!!」
巫女『………社様………』
足が踏み台から離れる。
涙が散る。
社「くぅっ!!」
手を伸ばすが、一歩およばず。
握った手は空しく空をつかむばかり。
社「ああっ!!」
下をのぞき込む勇気もなく、その場にうずくまる。
一瞬の後、ぐしゃりと何かがつぶれる音が…………………………………した。
都「フッ」
足元に落ちたザクロのごとき赤い物体に、見下した視線を浴びせる。
しんと凍りつく空気。
都「…………あれ。この羽衣も残念ながら本物ではなかったようですね」
言って背を向ける。
結局、全て偽物。
想像以上の姫の美しさと思いも寄らぬ残忍さを見せつけられ、求婚者たちは何かに憑かれたように惚けたままで引き上げて行く。
犬
1,
あの、惨劇から一夜明けて。
自室。布団の中でガタガタと震えながら、
社「……私のせいだ……あの巫女が死んだ……いや……殺されたのは……」
「姉上はおかしい……いや……そうじゃない……私もおかしいのだ……」
あの巫女が死に立たされたとき、ふいに目が覚めたような気がした……。
犬のときもそうだ。
何かがおかしい。
廊下から、声。
椿「社様~!! 今日はお稽古なさらないんですか~? もうご飯の時間ですけどぉ~?」
社「!!」
あきらめて起き上がる。
社「ああ、今行く」
支度を整えて出て行く。
社「姉上は?」
椿「早朝から何やら共を連れて出掛けていきましたけど?」
社「そうか……」
昨日の今日でもう遊び歩いているのかと肩をすくめる。
椿「それより、昨夜はどうだったんです!!?」
社「何が?」
椿「何じゃないでしょうよ!? 都様の殿方ですよぅっ!! どんな方が……」
社「ああ……皆、帰られたよ……」
椿「えっ!? そりゃまたどうしてっ!?」
社「貢ぎ物がみんな偽物だったのだよ」
椿「んまっ!! ヒドーイッ!! 都様に対してそれは不誠実というもんじゃありませんか~っ!!」 プンスカ!!
社「いや……姉上が無理な条件を出したのさ」
椿「……え?」
社「……もとより、受け入れる気などなかったのだ……」
椿「はぁ?」
社『姉上は……まだ……猛のことを?』 舌打ち。