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みやまよめな:61
2008.06.10 |Category …みやまよめな
社「姉上っ!! 姉上が玄米を殺したのですなっ!?」
いきりたって問い詰める。
都「!! 何を言うかっ!! 知らぬ!!」
社「では今の傷は何と!?」
都「野良にかまれただけです!!」
社「いいえ!! 姉上は先日、転んだとおっしゃっておりました!! なぜ嘘をつかれたかっ!?」
都「……………………………」
「……ふん……」
社「!!」
都「……たかが犬コロ1匹になんですか、大の男がみっともない……」
突然、開き直る。
▽つづきはこちら
社「……姉上」
都「そうです。あの馬鹿犬が吠えてうるさいし、私の手を咬んだりするから」
社「でもあんまりじゃございませぬかっ!! 玄米は私の犬ですっ!! 姉上だってあんなに可愛がっておられたのに……!!」
都「何を言うか。お前だって、前にあの犬を蹴飛ばして、万次に始末せよと申していたクセに」
どうやら、あのとき、こっそりと様子をうかがっていたらしい。
社「私はあのときはどうかしていたっ!!」
都「…………では、私もどうかしていたのです」 しれっと。
社「……うぐぐ」
都「……さっ。ゆきますよ」
ぼんやりと成り行きを見守っていた連れの巫女たちを促す。
後に残され、
社『……ヒドイ……ヒドイ……あんまりだ……』
怒りのやり場がなくなり、うつむいて地面をじっとにらみつける。
やがて重い足取りで玄米の墓に戻り、
社「すまぬ、玄米……。お前のカタキを討ってやろうかと思ったが、姉上が犯人ではどうにも手を出せぬ……」
恨みの線が濃いかもしれないとの万次丸の言葉を思い出す。
社「……恨み、か」
『姉上は私を恨んでおられるのだろうか? 巫女が殺されたときも……私が世話になったと言っていた。それは姉上の動向を私にもらしていたから? だとすると玄米も私のせいで殺されたのかも……』
『猛が殺されたからか? それにしたって……以前の姉上とはまるで別人だ』
「ああ……本当に姉上はどうしてしまったのか」
「いや……」
首を振る。
社「姉上だけではない。私もだ。私もどうかしておる……」
『……どうすればいい……? どうすれば……』
鬼姫
1,
過去の場面。まだ幼さが残る少女・都。薄暗い森の中にある泉の前で一人。
都「ギョリュウ様、ギョリュウ様。都は母様を救えなんだ。都は鬼の子だと父様が言う……。母様が亡くなられたのは都のせいだという……」
草履(ぞうり)をぬいで、ひんやりとした水に足を入れる。
都「都は生きていてはならぬ者であった……。都の命をあげるから、どうぞ、この罪を洗い流して……。都は神通力なぞいりませぬ。次に生まれることがあるならば、普通の娘として生まれたい」
『都の命で母様、許して……』
泉に身を投げる。
どこまでも沈んでゆく。
暗い暗い水の底へ……
その暗闇から赤く光るもの二つ。
もぞりとソレは動き、水底の土が煙のように舞い上がる。
意識の薄れる中、声が頭の中に届く。
透明な男の声。
声1「また来たか“罪人”が……。“罪流しの泉”などない……。お前の願いは聞き入れぬ。お帰り、お前の住む処へ……」
白い鱗のはえた長い体で落ちてくる都をくるりと囲む。
二つの光の正体は白龍の目玉だったのだ。