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レイディ・メイディ 41-2
2008.06.11 |Category …レイメイ 39-41話
魔物が起こす事件がここ近年、急速に増えている。
それは平和な時代にあって「お飾り」と陰口を叩かれることもあった薔薇の騎士団の出兵が多くなったことでよくわかる。
特殊で厳しい訓練に耐え抜いた、数少ないエリート中のエリートが養成所から輩出され、その者たちが魔法を操り、竜を駆るのだ。
彼らは現在もなお、国内最強を誇り、また向かうところ敵なしと誰もが信じて疑ってはいない。
けれど、ローゼリッタ最強の軍隊と誉れ高かったのは、もはや過去の栄光ではないか。
本当に今も最強なのか。
実際に戦ったら、常に賊や魔物、諸外国の脅威にさらされ続けている辺境の地を護る軍隊とどちらが強いだろうか。
持てる力は強大であろうとも、お行儀の良い騎士団と。
個々の能力は劣ったとしても、数々の戦闘をくぐり抜けてきた戦士たちと。
▽つづきはこちら
レヴィアス「……愚問ですな」
魔術を教える薔薇の騎士団養成所の教官・レヴィアスが鷲鼻を心持ち天に突き上げるようなそぶりをして、小さく笑った。
レヴィアス「確かに経験は大事です。それは否定しません。ですが、それさえも圧倒的な力の前では」
頭を左右に振り、あえてその先の言葉をつむがない。
わかりきっているだろうと言うように。
氷鎖女「そうでありましょうや?」
同じ教科を教える者として、職員室では隣に席を構える同僚・氷鎖女が首をかしげた。
レヴィアス「当然です」
氷鎖女「ソレが例えば、竜とマムシの戦いであらば、圧倒的にもなろうが……はて?」
レヴィアス「ドラゴンとマムシなのですよ」
氷鎖女「しかし……竜は竜でも、子竜と大蛇やもしれませぬ」
レヴィアス「我らが子供のドラゴンだとでも?」
氷鎖女「あ、いや、そのような……」
倍以上も年配の同僚に鋭い視線を突き立てられて、いささか気の小さいところのある氷鎖女は首を引っ込めてしまった。
やぶへび。
反論などせずにただうんうんとうなづいておけばよかったと後悔しても後の祭り。
このままここに居続けると延々たる説教と持論を聞かせられてしまう。
自然を装って席を立とうとする氷鎖女の脳天を、ナーダが日誌の角で軽く叩いた。
氷鎖女「背が縮んだらどうしてくれる」
ナーダ「…そうね、飼ってあげるわ」
赤薔薇の名に相応しい、燃えるような赤い髪の女性騎士が余裕の笑みを浮かべれば、全身黒の魔術師は冴えない素振りで肩をすぼめる。
氷鎖女「ご冗談」
ナーダ「…ふふん」
「ところでアンタ、今、我らの悪口言ってたでしょ」
抗議を受け付けず、日誌で頭を叩き続ける。
氷鎖女「めっそうもござらん。ナーダ殿の陰口など………イジメられたときにしか言いませぬ」
ナーダ「…今日は?」
氷鎖女「…言う。だってぶった」
ナーダ「………………」
氷鎖女「オニヨメ・コジュート・イキオクレ」
母国の言葉を使って、悪い言葉を小声でこっそり並べてみる。
ナーダ「アンタ、今、なんつった?」
氷鎖女「なんでも、ござらん」 首を振る。
ナーダ「何かよくわかんない言葉使ったわよね?」
氷鎖女「なんもござらんて」
ヴァルト「おいおい、あんまりナーダを怒らせるなよ、俺にまでとばっちりがくるだろう」
書類を書き終えて自分も宿舎へ戻ろうと腰を浮かせた青薔薇教官のヴァルトが軽く冷やかす。
氷鎖女「しかし、拙者、本当にナーダ殿の陰口など……」
落ち着きなく、周囲を見回す。
ヴァルト「いや、薔薇の騎士団のことだろう?」
氷鎖女「悪口などでは断じて」
ナーダ「子供のドラゴンって聞こえたわよ」
氷鎖女「例えの話でござれば」
ナーダ「十分よ。……いいこと? ヤシの木一本生えた無人島から漂流してきた田舎の異国民にはわからないでしょうけどね」
氷鎖女「ヤシの木なぞ生えておらんかったし、いくらなんでも無人島では……」
ナーダ「薔薇の騎士団っていうとドラゴン乗りの騎士と魔法使いという華やかな構成がまず目につくけどね、それだけじゃないわ。薔薇の騎士団には古い古い歴史があるのよ。その中で刻まれ、磨かれてきた戦術があり、それは他に勝るこそしても劣ることはない。国が全ての力を注ぎ込んだ力の結集。勝利の象徴なの」
座ったままのレヴィアスが目を閉じて、うなづきながら聞いている。
ナーダ「計算し尽くされた戦闘集団よ。完璧に統制のとれた無駄のない展開の前には、敵など烏合の衆でしかない」
レヴィアス「そのとおり」
氷鎖女「…………」
ナーダ「おわかり? ドチビちゃん」
相手の低い鼻を人差し指ではじく。