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レイディ・メイディ 41-3
2008.06.11 |Category …レイメイ 39-41話
氷鎖女「気分を害したのなら、申し訳ござらぬ。ただ、すこぅし疑問に思っただけでございますれば、ご容赦を」
はじかれた鼻をさすりつつ、氷鎖女は素直に詫びると今度こそ職員室を出て行った。
ナーダ「…ふぅ」
ヴァルト「大人気なかったな。相手は小人族だぞ」
レヴィアスに挨拶をして、ナーダとヴァルトも宿舎に戻るため、廊下に出た。
ナーダ「アンタも言いたい放題ね」
ヴァルト「俺はミジンコの言いたいことはわからなくもないが」
ナーダ「……私だって、わかっているわよ……」
▽つづきはこちら
魔物の増加。
薔薇の騎士団の出兵。
魔物は、ドラゴン使いであり、魔法使いである薔薇の騎士が相手をすることに決まっている。 今、出陣せずにいつ出陣かと各地に部隊が送り込まれてはいるが、旗色が悪いのである。
魔物が強すぎるのでは決してない。
統率がとれているハズの騎士団が、魔物との戦闘に浮足立ってしまうのだ。
人の手で育てられたドラゴンたちも初めての戦闘に興奮、または脅えて命令を聞かなくなったりする。
薔薇の騎士団同士の試合や命懸けの訓練でも死力を尽くし、勇気を見せた彼らが、殺し合いの本番に足をすくませてしまったのである。
持てる力を出し切れずに部隊が総崩れという例も少なくはなかった。
ナーダ「でも、すぐに形勢逆転するわ」
ヴァルト「そうだな。このままで終わる我々ではない」
薔薇の騎士団は国中から選ばれた騎士である。
少し慣れてくれば巻き返しなどたやすいに違いないのだ。
ナーダ「それにしても、どうしてこんなに急に魔物が増えたのかしら…?」
ヴァルト「サーリマ地方のニグオン侯の領地は、応援が間に合わず、丸ごと魔物の群れに飲まれてなくなったそうだな」
苦々しく目を細める。
ナーダ「一体……何が起きてるっていうの」
足を止めて、2階の窓から外を見やる。
ヴァルト「わからない。ただ……」
同じく足を止め、ふざけ合いながら校舎を出て行く生徒たちに視線を落とす。
ヴァルト「ただ、アイツラが正騎士になる前に戦に駆り出されることがなければいいがな」
少し驚いて隣を振り向き、「やめてよ」とナーダは眉をしかめた。
生徒たち「サクラ、サクラ、口の利けない哀れな黒猫♪」
「サクラ、サクラ、優しい王様、拾って可愛がってくれたけど、」
生徒たちが、ローゼリッタでよく知られた童謡を歌いながら遠ざかって行く、夕焼けの中。
生徒たち「サクラ、サクラ、新しいおすまし白猫やって来たら~♪」
「哀れやサクラ、子猫と一緒に川の中♪」
ナーダ「……あれってば、子猫と一緒に“井戸の中”じゃなかったっけ?」
子供の頃に歌った覚えがある。
ヴァルト「ウチの方じゃ、“城の地下”だったけどな。ところでサクラってなんのことなんだろうな? 聞き馴れない単語だが」
ナーダ「猫の名前でしょ?」
ヴァルト「それはそうなんだが」
ナーダ「知ってる? あれって、捨てられた女が殺された歌なのよ」
ヴァルト「ナルホド、猫は女か」
階段を下りて生徒達が通って行った同じ方向をたどる。
ヴァルト「しかし俺の聞いたのは、財宝の隠し場所を唄った歌だって話だったけどな。だから、古い城の地下にお宝眠っているんだって。サクラがキーワードだと思ってた」
ナーダ「財宝? 何それ。こっちじゃ、怪談話ってことになってたわよ? 子を孕んだ女が邪魔にされて井戸に投げ込まれた話。だから子猫と一緒に井戸の中っていう……」
ヴァルト「最悪だな」
童謡や童話には確かに多い。残酷な物語が。
ナーダ「まーね。今考えるとね。子供のころはそこまで深く考えないで遊んでたけど」
氷鎖女「何ぞ、その歌は?」
ナーダ、ヴァルトより先に宿舎の方に戻っていた氷鎖女が建物の前でクレスと出くわしていた。
クレス「何だよ、聞いてんなよ」
黒猫チェリーを相手にしていたクレスが何の気無しに歌っていたのを知らずに聞かれ、思わず赤面する。
校舎から戻って来た生徒達が歌っていたのを耳にして、うつってしまったのである。
氷鎖女「これはすまぬ」
クレス「黒猫サクラって……知らないの?」
氷鎖女「……サクラ……?」
クレス「これだから外人はー」
なぜか勝ち誇ったように鼻を鳴らす。
クレス「ま、遊び唄だよね。一人はサクラ役で、それを囲って回りをクルクル踊るんだよ。歌い終わって皆が逃げて、サクラ役のヤツが追いかけんの。捕まったら、殺されたことになってゲームオーバー。知らない奴はいないよ」
氷鎖女「かごめかごめのような遊びでござるな。ま、あれは追いかけっこにはならぬが」
クレス「カゴメカゴメ?」
氷鎖女「やはり輪になって目隠しした一人の周囲をくるりと回り、歌い終わると中の者が自分の背後で止まった者が誰かを当てる遊びでござる」