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みやまよめな:69
2008.06.12 |Category …みやまよめな
とある森の奥深く……。
薄暗い泉の水がうねった。
水中からの透き通る声1『社…、…社……見誤るな……』
走る社「はぁっ、はぁっ……」
横たわる都「社、社……戻ってこい……」 うわ言。
声1『我ができるはこれまで………………あとはお主たち次第……』
99の朱の鳥居をくぐる社。
▽つづきはこちら
目を薄く開き、横たわる都、「椿……その鏡を壊しておくれ……」
椿「ダメですぅ。それはご当主様がいけないと言ってますんで……」
都「私の言うことが聞けないのですか?」
椿「……そのようにおっしゃられても、断るようにとも言われてますんで」
都「椿っ!!」
椿「ダメですっ!! ダメったら、ダメなんですっ!!」
都「私は神子ですよっ!!? 御神崎様の力を授かった……」
椿「あたしにもそんなコトを言うんですか!!? 椿は悲しいですっ」
都「………………………」
『……くっ!! おのれ、やるではないか、あの小僧……』
頭の中で低い声で唸る。
それは都の声ではない、獣じみた声……。
都『……いや、アヤツだ。“奴”が手を貸したのじゃ。あの鏡……くぅ』
鏡は古来より魔を退け、跳ね返す力があるという……。
無実の罪をかぶって水に沈められた男の御霊を供養するために、投げ込まれた鏡。
だがその実、男の怨霊を恐れ、その泉から男が出てこれないように封印として投げ込まれた鏡……。
目をふさがれた白装束の男は、怨霊になったか否や(いなや)……。
それは誰にもわからない。
だが……その鏡は確かにあった。
今、ここに。
都「おのれ」 今度は都の声。
『見えるのに……!! 動けぬ!! 早くしないと……!!』
都の目には相変わらず、押し寄せてくる人の波が見えていた。
都「社!! 社を呼べっ!!!!」
椿「落ち着いて下さいっ!! 社様は先程、よい薬があると出掛けられましたっ!!」
都「おのれ……」
また頭の中でケダモノの声「おのれ、…………御龍(ギョリュウ)!!」
それっきり、頭の中の獣はよそへ行ってしまった。
社は、99の鳥居を越え、お堂に着いた。
社「御神崎様!! 出て来て下され!!」
一人、大声で叫ぶ。
社「われらを助けて……、護って下され!!!!」
「姉は鬼に心奪われ!! さまよっておりまするっ!! 御神崎様っ!! 御神崎様っ!!!!」
社はお堂の周囲を回り、盲目の、白装束の男を探し歩いた。
社「鏡は効きました!! 骨壷を奪って参りました!! 次はどうしたらよいのですかっ!? お願いでございますっ!! 社に知恵を!!」
彼が“御神崎様”と思っていた者は“御神崎様”ではなかった。
水に濡れて現れた盲目の男は、…………“御龍”だ。
社は御龍のくれたきっかけを間違えてとらえてしまったのだ。
社「御神崎様っ!!」
叫んだとき、ゴゥッ!!と突風が吹いた。
社『鬼っ!? ……それとも……』
御神崎様…………?