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みやまよめな:71
2008.06.12 |Category …みやまよめな
御神崎山。お堂の中。
社『会ってどうした……? 何故、助かったのだ!!?』
そこがどうしてもわからない。
姉を守ろうとした社は鬼の爪ではじかれ、意識を失った。
気づいたら父や母がいて、背中には傷痕だけが残り、自分も都も無事だったのだ。
途中の記憶がどうしても抜けている。
それがわかれば、全てがハッキリするような気がするのだが。
社「ああっ!! くそっ!!」
頭をかきむしり、ハッと人形に目を止める。
社「これは!!」 手に取る。
「……………………まただ……」
いつかと同じように、血の涙を流していた。
突然、頭の中に男の声が割り込む。
先程の鬼の声ではない。
▽つづきはこちら
声1「インガノイトヲキレ……メヲ……ミギノ……」
社「!!」
『御神崎様っ!?』
声1「ソレガ……イン…………ノ………イト……」
「イン…………イト……………キレ……」
何かに邪魔されるようにかすれる声。
声1「イン…………ガ…………ガ…………ガガ…………」
それきり、声は聞こえなくなった。
社「インガノイトオキレ?」
意味がわからない。
声は何を伝えようとしていたのか。
もう一度口にしてみる。
社「いんがのいとおきれ?」
「………………?」 困惑。
「メヲ、ミギノ」
人形に目線を落とす。
“メヲ、ミギノ”は“右の目を”というのは間違いない。
今も右目から人形は血を流している。
“いんがのいとおきれ”は正しくは、“因果の糸を切れ”だ。
しかし社には……
社「……ダメだ、これ以上はわからない……」
「 ともかく……、右の目のことを言っているのはわかる。それが鍵。いっそ燃やしてしまえばいいだろう。骨も残らないくらいに燃やし尽くしてやる。そうすればいくら鬼だとて……」
泉。
声1『思い出せ、都……』
『思い出せ、社……』
『思い出せ、思い出せ……』
御神崎山のお堂。
パチパチパチパチ…… 火のはぜる音。
社の白い顔を赤く照らしている光。
炎の中で散ってゆく骨と………人形。
……突風は……なくなっていた。
鬼の最後の抵抗が消えたのかもしれない。
静かな夜。
社「………終わった」
もう、声は聞こえない。
鬼の、猛の野太い声は。
ミミズクが鳴く。
社「姉上に取り付いた鬼も本体がなくなって消えたハズだ……」
伸びをする。
事は、終わったのだ。
社「……色々ありすぎた………疲れたな……」
「ん?」
月明かりに照らされた花を見つける。
“みやまよめな”だ。
社「……姉上の花だ……。そうか……もう、そんな季節か」
しゃがんで手を伸ばす。
清々しい気持ちになり、同時に安堵で大きなため息がもれた。
“御神崎様”の助けを借りて、社は鬼を討った。
きっと、もう姉は元の優しい姫に戻っているハズだった。
ふと足元に咲く青紫の花に目を止めて、微笑みかけ……
社「……!!」
ピクリと眉を動かす。
花に手を伸ばしたままで凍りつく。
社「…………………黒百合……!!」
みやまよめなの隣には、黒赤い花…………黒百合があった。
その花言葉は……
社『“恋と呪い”…………』
心にドス黒い何かが渦巻く。