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みやまよめな:72
2008.06.12 |Category …みやまよめな
社『……終わったのだろう……?』
花だとて、咲く。
黒百合の季節にはまだ早い。
だが、まったくの季節外れではない。
たまにはこんなこともあろう。
気のせいだ。偶然だ。
…………………………………………………………………………。
相手に気づかれず、この花を贈ると必ず結ばれるといわれる恋の花……。
都が知らぬ間に、毎日届けられていた花……。
呪いの花………
社「……い……いや……大丈夫。もう猛はいないのだから……」
頭を左右に振る。
東の空が赤みを帯びてきた。
社「ともかく、姉上が気にかかる。本当に鬼がいなくなったのか、会えばハッキリするハズだ」
小さくなり、くすぶる焚き火を足で踏み消す。
社は帰り道を急いだ。
▽つづきはこちら
その数刻前。
城になだれこむ民衆。
反旗が翻された。
役人や家臣からも裏切りが発生。
そして…………
広場で人々に囲まれながら、杭(くい)に縛り付けられ、火刑に処される都。
町人「何が神子だっ!!」
「鬼姫!!」
「鬼姫!!」
「都様を返せ!!」
父「都は死んだのじゃ!! 都を返せ」
町人に混ざって、父の声がする。
町人「鬼めっ!!」
「災いを呼んでいたのは、この女だ!! それを鎮めて神子よとのたまっておったのだ」
都「くっ……おのれ……」
幼い都「母様(ははさま)、なぜ都だけお堂に行かなくてはならないのですか? 都は、恐ろしゅうございます」
母「ワガママ申すものではありません。我が帯刀(おびなた)家の女子は7つになったら、必ず御神崎様(おみさきさま)のお堂に身を清めに行かなくてはならないのだから」
都「おみさきさま……」
“御神崎様”は、“お見先さま”……
母「そう、御神崎様。いつも言っているでしょう? 7つになった女子は一晩、お堂に籠もり、帯刀家以外の者や男子に姿を見られてはなりません」
見られてはいけなかったのに……
都「見られるとどうなるの?」
どうなるの?
母「よいですか都? この人形は貴女の身代わりになってくれる人形です。これを一晩抱いて、人形に命を吹き込むのです。そうすれば、これからの貴女に降りかかる災厄をこの人形が引き受けてくれるでしょう」
焼ける人形。
社が焼いた人形……
母「明日の朝、母様(ははさま)が迎えにくるまで、絶対に、何が来ても扉を開けてはいけません。もしも、何かが声をかけてきても、絶対に答えてはいけません。絶対ですよ、いいですね?」
絶対に、
応えてはいけなかったのに……
都「何かって、何?」
何?
母「……わかりません。きっと…………」
「きっと鬼です」
見られてはいけなかったのに。
応えてはいけなかったのに。
都「やっぱり嫌。母様(ははさま)、置いていかないで!!」
置いて行かないで。
置いて逝かないで。
母「これ!! 聞き分けのないことを。大丈夫。母様もおばば様も大ばば様も昔はこうして身を清めたのだから。母様の言い付けさえ守っていれば、鬼はきません。ホラ、ごらんなさい。こんなにお札が張ってあるでしょう? 来る途中にあった鳥居にも。札が張ってある所は鬼には見えないし、入ってこれないのですよ」
約束を破ったのは、社。
男の子(おのこ)は来てはいけなかったのに。
見られてはいけなかったのに。
応えてはいけなかったのに。
約束を破るとどうなるの?
封が解けてしまうの。
何が出てくるの?
鬼が出てくるの。
先を見ることのできる、鬼が。