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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 第42話

第42話:手袋……パンツを買いに。

 2日前からだった。

 母の形見であり、シャトー家の血筋を証明する唯一の証しでもあるロケットペンダントがシラーの手から離れたのは。

 

シラー「…ない…」

 

 部屋中を引っ掻き回して呆然と立ち尽くすシラーは、ここ2日ばかりずっと落ち着きなく、授業も食事も寝ることさえままならなくなっていた。

 あのペンダントこそが彼女の唯一の切り札なのだ。

 

レイオット「いつから?」

シラー「一昨日のお風呂の後……だと思う」

 

 レイオットの問いに肩を落として答える。


▽つづきはこちら

 

ジェーン「どうしてそんなに大事な物をお風呂まで持ってくかなぁ」

シラー「仕方ないでしょ! ああっ、もうっ! 誰かが盗んだのよ! 私を妬んでる奴に違いないわ!!」

ステラ「そう決めつけるのは早いでしょ。紛失届は出した?」

シラー「当たり前でしょ、出したわよ、とっくに!」

モーリー「シラー、こわ~い」

シラー「うるさいわねっ! アンタにはわからないわよっ!」

レイオット「モーリー、煽らないで。シラーにとっては大事なお母さんの形見なんだから。気が立つのも無理はないわ」

 

 空気を読めずにからかうモーリーをレイオットがたしなめる。

 

シラー「こうなったら、手当たり次第聞いて回るしかないわ。心当たりある奴を見抜くのよ」

レイオット「待って。それだと疑ってることになっちゃうんじゃない?」

シラー「キレイ事はやめて! 誰かが盗ったのは明白なのよ!?」

クロエ「でもここは薔薇の騎士を目指す人が集まってるのよ? 妬みから人の物とったりっていうのはないと思うな」

シラー「バカね。皆が皆、アンタみたいなオメデタ頭とは違うのよ!」

クロエ「…………」

 

 怒鳴られて身をすくめる。

 

レイオット「シラー! 気が立つのはわかるけど、今のはあんまりよ」

 

 

モーリー「……ってなカンジでぇ~、シラーこっわいの」

 

 休み時間に廊下で立ち話をする仲良しトリオのモーリー、ジェーン、アン。

 

ジェーン「そりゃあそうよ。っていうか、モーリーあんた、煽るのやめてあげなさいよ。可哀想じゃない。アレ、そーとーアセッてるわよ?」

モーリー「見つけたらタダじゃおかないってさー。余裕なくなると地が出るよねぇ。ウフフ~♪」

ジェーン「コラー。またぁ。アンタ、時々、信じられない発言すんのよねー。まったく空気読みなさい、空気!」

 

 二人の話にほとんど参加していない、アンの顔色は悪かった。

 鼓動が高まり、ふるえる手はスカートを握り締める。

 シラーがクラス中に捜索を手伝わせているのは、今日知った。

 

アン「こんなに騒ぎ大きくなるなんて…」

ジェーン「え?」

モーリー「…………」

 

 

 教養の授業が終わって、廊下でレイオットを取り巻く集団とメイディアがすれ違った。

 

レイオット「あっ、メイディ」

メイディア「……………」

 

 気づいてこちらを見たが、すぐに鼻先を上に向けると答えることもせずにメイディアは立ち去ってしまった。

 

レイオット「あうぅ~」

レイオットの取り巻きたち「何なの、あの態度!」

            「気にしない方がいいですよ、レイ様」

            「そうですよ、放っておきましょう。いい薬!」

 

 レイオットとメイディアはケンカしたままだ。

 ケンカというよりも、例によって例のごとくメイディアが一方的にふくれてしまって、そのままなのだ。

 いつもなら、多少のすれ違いがあっても相手の正論にメイディアが結局は敗北を認め、スネた態度をとっていながらも折れてしまう。

 「わかりました、レイオットがそう言うのであれば」と。

 とはいえ、同じ場面で同じように別の人物が言ったなら、こうはいかない。

 気位の高い彼女は、安っぽいプライドが邪魔をして、自分が間違っていると思っていてもなかなか素直に認めることができないのである。

 養成所に来た当初よりは、だいぶマシになったが、それでもまだ人並みにまで到達していない。

 そんな彼女が割りと素直になれる相手が、このレイオットとレクの二人なのだ。

 面倒見が良く、辛抱強く、穏やかな性格の二人は、精神的に幼いメイディアを相手にしても上手く立ち回ってくれる。

 二人は無意識にメイディアを操れていたし、メイディアも自分が誘導、操作されているなどまるで気づいていない。

 そう、これっぽっちも、丸っきり、ちっとも、ほんの少しも。

 だから、関係は上手くいっていた。

 メイディアはレイオットを信頼していたし、レイオットは失礼ながら幼女のような彼女を妹のように可愛がっていたのである。

 ところが。

 その当たり前だったバランスが崩れるときがやってきた。

 メイディアの尊敬する父親に実は隠し子がいたことから問題は発生する。

 両親を敬愛するあまり、母の愛を裏切った父を許せなくなり、怒りの矛先は愛妾の子供……彼女にとっては歓迎し難い姉妹のシラーブーケに向けられてしまったのである。

 健気にもシラーブーケはメイディアに対して、礼節をもって接しようとするが、メイディアは頑として受け入れようとはしない。

 立場が弱く、可哀想なシラーに完全無視を仕掛けたり、その態度は目に余る。

 レイオットがシラーと仲良くすると姉を取られた気持ちになってしまったのか、仲良くしないでくれと駄々をこねる。

 あげくの果てに相手を蔑むような言いようをする彼女を、思わずレイオットは引っぱたいてしまったのである。

 けれど、目をかけていた彼女の口からそんな言葉を聞きたくなかった。

 他人から叱られた経験の少ない根っからのお嬢様は、よほどショックだったに違いない。

 とうとうレイオットの気持ちを汲んでくれることなく、貝の蓋を固く閉ざしてしまった。

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