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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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みやまよめな:73

 現在。

都「……おのれ……」

 

 歯を食いしばる。白い着物をはい上がってくる炎。

 

役人「鬼女の最期だ」

都「おのれ、おのれぇっ!! 神子であるこの私を……!! ……愚民共め、許さないっ!! 絶対に!! 私は必ずや蘇り、汝らを滅ぼすであろうっ!!」

 

 炎が大きくなる。

 

都「ぎゃあぁぁぁっっっ!!!」

 

 人間の焼かれる臭い。

 

 木の陰でそれを遠目に見ている若い男「…………………………」

男『……姉上……』

 

 まさか、自分がいなくなっている間にこんなことになっているとは思わなかった。

 今は貧しい町人に化けて人々の間に呆然として立っている。

 

男『鬼を討ったのに……………………鬼を………………違うのか……?』


▽つづきはこちら

 

 炎は全身を焼き、もう人の形をした黒炭。

 完全に明るくなり、人々は冷酷な独裁者を討った喜びに浸る。

 町のほとんどの人口が広場に集まっている中、何も知らぬ椿と万次丸は多くの護衛に守られながら、山道を行く。

 

万次「手紙にゃあ、何て書いてあんのよ?」

椿「知らないよ。でも、それをお渡しすれば向こうで何とかしてくれるって」

万次「……ふぅ~ん? でも家族までなんでわざわざ……遠いって言ってもさ。まさか、俺たちゃ、おヒマを出されたんじゃ……?」

椿「違うってば!! 椿たちにしか頼めない大事なことだっておっしゃってたんだからねっ!! それにヒマ出されるんなら、こんなにゴテゴテ守ってくれやしないだろっ」

万次「……そりゃそーだ」

 

   ……手紙には、ただ、この一家を向こうで働かせてやって欲しいとあった。大金の一部は母の実家に。

一部は椿と万次丸に譲られる手筈となっている。

 都は、どうにもならない未来を見て、せめて幼なじみだけは…………と彼らを逃がしたのかもしれない。

 

 

 誰もいなくなった広場。

 粗末な身なりの男がヨロヨロと頼りない足取りで、まだ煙のたつ死体に近づく。

 

男「姉上…………」

 

 震える両手を差し伸べる。

 

「姉上…………社、参りました……」

 

 涙が頬を滑り落ちた。

 男子は2度泣いてはいけないのに、もう涙を流すのは何度目か……。

 

男「遅れて申し訳無い……」

 

 都であったモノは、あの緑豊かな黒髪もほとんどそげ落ちて、目も鼻も落ちくぼんでおり、生前の面影はどこにもない。

 今は黒く焼けただれてしまった、美しかったその顔に触れる。

 ぼそり……と表面が一部落ちて、中の赤い肉がのぞいた。

 

男「……………………美しい………………美しい姉上………………………」

 

 焦げた物体にすがりつき、ズルズルと座り込む。

 

男「今こそお聞き下され……」

 

 頭をうなだれる。

 

「社は…………姉上が……………………………………………………」

 「………………………………………………………」

 「……………………? 姉上?」

 

 突然、顔をあげる。

 

男「…………姉上」

 

 口元に微かな笑み。

 

「ああ……姉上が……まだ……」

 

 都であったモノの右の目に指を引き入れる。

 ひっこぬくと、鈍い金色の目玉。

まだ焼けずに残っていたとは……

 

男「姉上……」

 

 迷わず自分の右目をずるり……と引き抜く。

 ぱたぱたと血が落ちて、地面に吸い込まれてゆく。

 そして、“姉の”目玉を自分の目の代わりに入れた。

 そのとき、遠くから役人の声。

 

役人「社だーっ!!!!」

町人「捕まえろー!!」

男「………………………」

 

 たちまち人々が集まってくる。

 男は群衆に向かって走りだし、たんっ!!と地を蹴る。

 側の樹に足をつき、木から木へと飛び移り、人家の屋根を飛び、瞬く間に男……社は姿をくらました。

 ……以後……、噂は聞かない……。

 

 

 都は罪流の泉に沈められた。

 蘇って祟ると呪いの言葉を遺して死んだ都の力とその言葉を恐れ、人々はせめて罪流の泉にと供養したのである。

 罪を許してやるから、祟ってくれるなという想いを込めて。

 側に落ちていたという、あの古い鏡と共に……

 水の中落ちてゆく布にくるまれた遺体。

水泡が上へと上がっていく。

 土煙。

その中に白い鱗の長い背がぐるりとうごめく。

 

御龍『…………都。やはりお前の願い、聞き届けよう……。ただし……』

 

 遺体を長い体で囲む。

 

御龍『ただし、お前が罪にまみれ、ヒトでなくなってしまったなら……』

 

 優しく、穏やかな声。

悲しい響きの…………。

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