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みやまよめな:30
2008.05.28 |Category …みやまよめな
魅入られし者
1,
あれから、毎晩、猛は都の部屋に忍び込んで来た。どこからともなく。
初めは無礼者とののしっていた都だったが、人を呼ぶことはしなかった。
抱き寄せられて、
都「いくら恩人とはいえ、このような狼藉(ろうぜき)、許されるものではありませんよっ!!」
猛「では、人でも呼んで、わしを斬るがよい。わしはそれでも構わぬ」
都「恐ろしくないのですかっ!?」
猛「なーに、人が恐ろしくて、神子殿をモノにできるか」 口づけを迫る。
都「何と豪胆(ごうたん)な……」
しかし、都はこの男が嫌いではなかった。
おかしな力を持つ自分を、人々は恐れ、あがめるばかり。
このように一人のただの女として扱われたことは、ほとんど身に覚えがない。
しかも都はまだ、本当の恋など知らぬ乙女。
男子に強く求められることもなかったために、胸の高鳴りにあがらうこともままならなかった。
都『……そうだ、夢での鼓動はこの男からだ……』
黒百合も彼の仕業であり、もうこれは疑いようもない。
都『私は、ずっとこの男に恋をしていたのだ……きっと……』
太い腕に抱きすくめられて、うっとりと目を閉じる。
▽つづきはこちら
2,
自分の家の庭で稽古を積む社。
社「ぬあぁっ!! くそっ!!!」
けれど、ちっとも身が入っておらず、ただメチャクチャに振り回しているだけに見える。
庭に水をまきながら、
万次『あ~あ、荒れてんなぁ~』
肩をすくめる。
万次『触らぬ神に祟りなし……っと』
そこへ椿がやってくる。
椿「あっ、おはよーございます、社様っ♪」
社「…………ッ!!」
社は気が付かない。
椿「おはよーございますっ、社様っ!!」
やはり気づかない。
もしくは気づかないフリをしているだけかもしれない。
もう一度、息を大きく吸い込む椿を万次丸がたしなめる。
万次「よしときなさいよ、椿ちゃん。今、若様はゴキゲンナナメだ」
椿「え~!? またぁ!?」
ぶーっとふくれる。
近頃、社はほとんど毎日、イライラしていた。
原因は猛。
猛が館に来たという話は1つも聞かないが、間違いなく奴は出入りしている。
それは他でもない、あの姉君が証明していた。
社『毎日毎日毎日毎日っ!!!』
木刀を振る。
社『何で、あの男の話を聞かせられなくてはならんっ!?』
「くっそ~っ!!!!」
問題なのは、姉がその無礼な侵入者を拒まない……それどころか自ら招き入れている節があるということだ。
しかも、猛の話をするときの都はすでに恋する女の目をしている。
社『くそっ!! くそっ!! くそっ!! くそっ!!』
闇雲に木刀を振り回す。
見えない猛に向かって。
社「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
さすがに疲れてきて、一息。
木刀を地面に突き刺す。
椿「はい、お疲れさまです」
タイミングよく、手ぬぐいを渡す。
社「……………………」 礼も言わずに受け取る。
椿「……………………」
万次「…………………」
水をまきおわり、一瞥(いちべつ)して、万次丸は立ち去る。
社は上半身の衣類を脱ぎ、渡された手ぬぐいで体をふき始め、椿はぼんやりとそれを見つめる。
椿「……………………」
社「……………うん?」
ようやく、椿の様子に気づいてそちらを向く。
社「あ、何だい、椿?」
椿「……ハッ!?」
「あ、いえいえっ!! 何でもないですぅっ!!」
裸をじっと見ていた自分に気づき、真っ赤になる。
そんな様子に毒気を抜かれ、
社「………手ぬぐいありがとう。……いつも気が利くね、椿は」
椿「ヤダー♪ そんなぁ♪ 当然ですよ~」
頬に両手を当てて、大喜び。