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みやまよめな:34
2008.05.29 |Category …みやまよめな
とりあえず、その場でだけはうなづいておく。
だが、この頼みはかえって、社の薄暗い嫉妬心をあおる結果になったのは言うまでもない。
館を出ると、猛がつながれている牢へと足を運ぶ。
人払いをして、天井から吊り下げられた猛をしげしげと眺めた。
社「よい様だな、猛」
残忍な冷笑を浮かべる。
猛「……おかげさまでな」
ニヤリと口の端を吊り上げた。
猛「まさか、本当に父上殿に言い付けるとは思わなかったな、はははははッ」
社「姉上に不用意に近づくからそうなる。これにこりたらおとなしく田舎にでも帰るのだな」
言って、勝ち誇る。
▽つづきはこちら
猛「都はどうした?」
社「呼び捨てにするなっ!!」
猛「わめくな小僧。都はどうしておる?」
社「はんっ!! お前のことなど、一言も口にはしておらなんだわ!!」
ウソをついた。
猛「ふ……ふふふふふふっ」
社「な……何がおかしいっ!?」
猛「なぁに、男の嫉妬はかくも醜いものかと思うてな」
社「な……っ!?」
怒りと屈辱のために逆上。
猛「残念じゃが、姫はわしの嫁御と決まっておる」
『……ずぅっと昔からな……』
「弟は弟らしく、姉の幸(さち)を傍から祝っておれ」
ガリッと歯軋りをし、
社「自惚れるなっ!! 姉上はっ!!」
側に立て掛けてあった拷問のための棒を振り上げる。
社「お前のような下賎の者などっ、初めからっ!! 本気になどっ!! しておらぬっ!!」
無抵抗の猛を激しく打ちすえた。
大きな声と体打つ音がいくどとなく鳴り響き、驚いた見張り番が様子を見にくる。
見張り番「……ひゃ~……ありゃ、ヒデェ……」
思わずつぶやく。
それに気づかず、
社「はぁっ、ふぅっ……いいか、猛。生きてここから出られると思うなよ。……………いいや。すぐには殺さないさ。責めて責めて責め抜いて、じっくりと死の恐怖を味あわせてからあの世に送ってやる!!」
暗く堕ちた瞳をあげ、汗と返り血をぬぐう。
猛「……………………」
天井から吊り下げられたままの状態でうつむいている。
縄が揺れてギシギシと音をたてる。
言葉ない猛に満足して、社は血にまみれた棒をその辺に放り、きびすを返した。
見張り番『ひぇぇ~、おっかねぇ~』
思わず壁にへばりついてやり過ごす。
去って行く背中を目に映し、猛は微かな笑みを浮かべる。
嘲る(あざける)ような、不気味な笑みを。
7,
その頃、
都「……?」
天井を見上げる。
都「……来た!!」
声「…………め…………」
都『お告げの声が………降ってきた』
声「……………姫……」
都「え? 何?」
一人で見えぬ者と会話する。
都『………この声は……猛!!?』
猛「姫」
都「猛!! 猛!? どこにおるのです!?」
キョロキョロと辺りを見回す。
すると今まで何もなかった所に猛の姿がぼんやりと浮かび上がった。
猛「ここじゃ、姫」
都「猛!!」 抱き着く。
「ああ、会いたかった……」 目を閉じる。
声が聞こえ、廊下を歩いていた巫女がそっと隙間に目を当てる。
巫女「………………?」
そこにはただ一人、都がいるだけであった。