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みやまよめな:32
2008.05.29 |Category …みやまよめな
都「猛殿に送ってもらうから、私の方はよい。それよりも今は椿と一緒にいておやりなさい」
椿「都様……」
社「………………」
『……くそ……』
都「椿」
椿「はい、都様」
都「社を頼みましたよ」
椿「はいっ!!」
都「あの子は見た目より、まだまだ子供…………。末子のせいか少々甘えたところがありますが、椿が鍛え直してやってちょうだいね」 ニッコリ。
椿「お任せ下さい♪」
二人、去って行く。
▽つづきはこちら
社「…………………」 ぎりりと歯軋り。
椿「社……様……?」 顔を覗き込む。
社「何だっ!?」
さっきまでの優しさはいずこ。突然、怒鳴る。
椿「ひゃっ!!」 身をすくめる。
社「……!!」
『あ、またやってしまった……』
苦虫をかみつぶした顔になる。
椿に当たってしまったのを申し訳ないと思って誘ったのに、これでは元の木阿弥。
けれど心の動揺はなかなか押さえられなかった。
社『……ダメだ……姉上のこととなると私は……』 髪をかきむしる。
しかし、明るくて単純な椿はたいして気に止めてもいなかったようで、
椿「近頃、都様、いっそうお美しくなりましたね~!! ひゃあ~……」
などと話しかけてくる。
社「……そ、そうだな……」
椿「香るようにってきっと都様のような方のための比喩(ひゆ)ですねっ♪」
社『香るような……か』
確かに、前までの可憐な少女の魅力とは少々違ってきたような気がする。
ぐんと短期間で、女っぽくなった。
もしや……とある想像にたどり着きそうになったが、それはあえて考えないようにした。
チラリ、と椿を横目で見る。
椿「?」
見られて、微笑みを返す。
お化け化粧のゴッツイ笑み。
社「………………………」 ゲッソリ……
椿「さ、私たちも帰りましょう!!」
元気に前を歩きだす。
社「……うん……」
一方、都と猛。
猛「何だ、弟君はまだ姉上にベッタリか」
都「……ベッタリは……私の方です」 苦笑い。
「母を亡くしてからというもの、私はなぜ母を助けられなかったのかと父になじられ続け、それをかばいだてしてくれていたのが、あの子なのです。いつも甘えていたのは姉であるハズのこの私……」
寂しそうに小さく笑う。
猛「……なるほど?」
「それでそなたらはそんなにも堅く結び付いておるのじゃな」
都「……ええ……。私が社を縛り付けてきたのでございます」
猛「じゃが、もうお役目御免じゃ」
都「!?」
一瞬、驚いた顔になるが、すぐに猛が“これからは自分がいる”と言ってくれているものと思い、嬉しくなる。
都『そう……か。あの子に寄り掛かるのはもうやめにしないと……。あの子が可哀想だというのですね、猛殿……。……わかりました』
勝手に心の中でうなづく。
猛の横顔を見上げる。
都『社のことまで考えて下さるなんて、なんとお心の広い方なのでしょう』
うっとりと目を細めてから表情を引き締める。
都『私ももっと強くあらねば……』
猛「ときに、都」
都「はい?」
猛「その弟のことじゃが、アレはそなたに惚れておるな」
都「……は?」
足を止める。
都「な、何をおっしゃいます!! またたちの悪い冗談を……」
猛「冗談ではない。今度、試してみようか?」
都「いーえ、結構ですっ!!」
ふんっとそっぽを向く。
都「いくら猛殿といえど、弟を馬鹿にすると怒りますよ!!」
猛「……………ふぅん」
だが、小馬鹿にしたような態度は改まらない。