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みやまよめな:36
2008.06.01 |Category …みやまよめな
2,
夜。
都の部屋から甘い喘ぎ声。
昼間、都の異変に気づいた巫女が様子を見にくると障子にぼんやりと都と男がからむ影が映っていた。
巫女「ッ!?」
『……確か……猛殿はまだ座敷牢に……。……そんな……』 青ざめる。
急いでその場を離れ、社の元へと疾走。
巫女「社様っ!! 社様にお目通りを!!」
門番「かような夜更けに何事ぞ!? 若様はもうお休みであらせられる。明日にせい、明日に」
巫女「今すぐに耳に入れたいことじゃ!!」
門番「お館様ではなく、若君にか?」
巫女「神子様のことじゃ!! お館様に言っては、何かと神子様が責められますゆえ」
門番「しかしだな」
巫女「ええい、この石頭め!! 明日になってから言うて、社様のお怒りを受ければ、貴様のせいじゃと申し立てますぞ!!」
▽つづきはこちら
人当たりの良い社は姉のことがからむと冷酷な裏側の顔を覗かせるのだ。
門番「ぐ……ぬ……。致し方あるまい、火急の用では……」
道を譲る。
巫女「社様っ!!」
ようやっと部屋までたどり着き、小さく呼びかけた。
社「!?」
驚いて起き上がる。
社「何だ、そなたは姉上づきの巫女殿ではないか」
巫女「少々、お耳に入れたいことが……」 ひざで擦り寄る。
社「……?」
3,
都づきの巫女に猛が牢から抜け出たかもしれないと聞き、社は走った。
そして牢を見に行くと………
社「…………………」
猛は依然としてそこにぶら下がっていた。
……息もたえだえに。
社「何だ、おるではないか」
見上げる。
そして、ハッと気づく。
猛でないとすれば?
社「……どういうことだっ!?」
刀をひっつかみ、都の館を目指して駆け出す。
夢中で走る社は獣のようで、15分の道程をたったの5分に縮めてしまった。
社「姉上がまた別の男と……!? そんな馬鹿なことがあろうハズがないっ!!」
都に近づく男は皆(みな)、死に逝(ゆ)け ……
タンッ!!
地を蹴り出すと、体はフワリと宙に舞い、一気に3メートルの高さの塀を飛び越える。
社「……!?」
『スゴイ……』
自分に驚く。
本当は側に生えている松の木の枝に手が届けば、そこから上によじ登って塀を乗り越えるつもりだった。
しかし、跳んでみたら、あっと言う間に壁を越えてしまった。
社「??」
「私が跳んだんだよ…………な?」
今越えた壁に手をついて、首をかしげる。
昔から自分が怪力だったのは知っていたが、他にもこんな能力があるとは知らなんだ。
目をしばたかせていたが、やがて気を取り直す社。
社「まぁいい。とにかく急ぐぞ」
自分に言い聞かせる。
音もなく、庭を駆け抜け、目指す姉の寝室の前に身を隠す。
中からは、姉の甘い喘ぎ声が漏れていて、社は思わず喉を湿らせてしまった。
社『な……なんという声を……………………。…………………姉上…………』
目を細める。
障子には、都ともう一人の影があった。
…………巫女の言っていた通りに。
社『……待て!? やはりあの影は猛ではないのか……!?』
六尺(約181.82㎝)を越える大男など、そうそういるものではない。
社『だが、今さっき確認してきたばかりだ…………………………いや、待てよ? 牢にぶら下がっていたのが、あやつとは限らんやも……』
どうやったかはこの際おいておいても、今しがた確かめてきた“猛”が身代わりだったかもしれない。
絶対に“猛”だったかと言われると急に自信がなくなる。
暗がりであったし、何より顔を持ち上げてまでは確認しなかったのだ。
社『うまいこと口車に乗せて、見張りに縄をとかせ、その見張りを捕らえて吊るしたというのが一番自然だな』
自分が納得いくように説明立てて、一人合点。