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いつかの子守唄:3
2008.10.05 |Category …箱庭の君 短編3
そんなことを繰り返している内に約束事にそって生きるのに退屈し始めた。
毎日、同じことの繰り返しだったからな。
それでやはり年頃の己だ。遊びふけることにした。
遊びたい盛りだ。まだまだ。
己はある山に住み着くことにした。
そこでまた人から巻き上げて気ままに暮らそうと思った。
…ああ、もちろん、当初の目的は忘れてなんかいない。
ちゃんと己らの封を解く鍵を探すつもりだし、あの女も必ず見つける。
今はどんな形になっていようとも見つけられる自信がある。
…根拠はないが、そんな気がするのだ。
見つけて、…そうだな…、嫁にするか考える。
己を殺す女だ。おもしろい。
他の七つが反対をするかもしれないが、それはそのときに考えるとしよう。
▽つづきはこちら
己はとある山に陣取って、好き勝手を始めた。こちらの方が気楽でいい。
そのうち手足となるならず者がいつの間にか増えて、己はそいつらから「若大将」と呼ばれ、また山のふもとに住む村の連中には山の名をとって「威吹童子(いぶきどうじ)」と呼ばれるようになった。
手下共は己といるうちに障気にあてられて、人あらざる者と化していってしまった。
…そんなつもりではなかったが、ともかく己のせいでそうなった。
異形となったそいつらを人々は、「鬼」と呼んだ。
己は鬼の大将となったワケだ。
その後もやはり食い物や酒、それに女を持ってこさせ、それで朝から晩まで騒ぎ通す日々が続いた。
女は、あの女かどうかを確認して、違えば後は鬼共にくれてやった。
あまり興味はなかったから…。
あるときたまたまの気まぐれで山を降りてみたら、地蔵の側に赤ん坊が捨ててあった。
珍しいので持ち帰って、飼育することにしたんだ。
ぐにゃぐにゃやわらかくて温かく、まったく初めてのモノであったから、己はたいそう困った。
…が、悪い気はしなかったな。
乳は出なかったから、代わりに己の血を吸わせ、歯が生える頃になると己と同じエサを与えるようになった。
赤ん坊はでかくなるのが早くて、あっと言う間に己を追い越してしまう。
小さかった頃の面影はどこにもなくなって、皮膚は固く、赤ら顔で毛むくじゃらの大男に育ってしまったのだ。
…おまけにこの己よりも酒飲みときたもんさ。
とんでもないやつに育ったと思いつつ、己はコレが可愛いかった。
可愛くて仕方がなかった。
だが、アレは大きくなるにつれて、己を嫌がり、自分の姿を呪うようになっていったのである。
何やら、人間なのに人間に嫌われるというのだ。…己のせいで。
これにはさすがの己にも参った。
可愛い我が子に嫌われるのは痛い。
ああ、己も人間らしくなってきたじゃあないか。
なぁ、そうだろう?
ともあれ、何とかしてやろうと思ったワケよ。親の立場としては。
幸い、己の顔をちゃんと知る者はない。村を襲うのはいつも手下共であるし、さらってきた女は己の顔を見ているが、生きて戻れぬから問題はない。
だから、悪さをやめて人里に住むことにした。親子二人で。
己が父親(てておや)のつもりだったが、どうにも周囲から見ると己が子でアレが父親に見えるらしい…。まぁ、無理もない。
己はまだわらしであったから。
拾った赤ん坊は18,20ともなって世に言う若人となっておったのよ。
それもたいそう大きくて髭(ヒゲ)もじゃだったから、実(じつ)よりも年くって見えたのであろ。
異形の子はここでもやはり嫌われたがな、何とか村外れで家を構えて暮らすことになった。
田畑をたがやし、のんびりとした…地に足をつけた暮らしというのか?
ともかく、それだ。
この暮らしを己も気に入った。
そんなとき、川の氾濫がが起こり、己の可愛いアレが流された娘を助けた。
これがきっかけで、アレは見事に人間の仲間入り。
次に備えて流されぬ橋を作ろうという運びとなったんだ。
そこでも怪力の大男であるアレは大活躍さ。だから、村の衆も喜んだ。
それから他の家の畑を手伝ったり、己は己で長い流浪の生活で得た薬の知識で村の衆を助けてやったりもした。
たちまち我が子は村の人気者だわな。
助けた娘と祝言をあげることになった。
…だけど…、そんなにうまくいくはずはねぇんだ。
だって、アイツは己の側にいすぎたから。
手下たちが「鬼」になったのに、あいつがなってねぇワケがなかったのさ。
頭に角みてぇなコブがあったのをひた隠しにしてたのさ、アイツは。
初夜に娘にそれを見破られてな、娘はこっそり村中に知らせ、寝たままアイツは火をかけられたってぇワケ。
アイツは怒ったね。そりゃあそうさ。己でもきっと怒る。
…いいじゃねぇか、なぁ。ちょっと人と違ったって。何をしたワケじゃあねぇ。
あ、己は色々したけどな。アイツはまだなんにもしてなかった。
ただ、仲間になりたかっただけだ。それの何が悪いのか。
アイツは怒って、村を滅ぼしちまった。
ワケなかった。そりゃあそうさ。己の子だもの。
そんなことがあって、己とアレは元の生活に戻っちまった。
田畑に未練があったけど、それは他でもできると抜かしやがる。
己はすっかり子に逆らえなくなってたから、仕方なく、山で畑を作ることにした。
うまくゆかなくて下に降りたいと思ったが、アイツぁ、がんとしてきかねぇ。
そのうち、まぁ、大将は己じゃなくてアイツに変わってた。いつのまにか。
それでも己ぁ、かまわなかったがな。
己は好きなときに好きなことをする。
今は、畑を耕す。
しかし、己がそんなことをしている内にアイツはどんどん悪名を馳せていって、とうとう討伐命令が下ってしまったんだな。
やはり神の力を借りた武士が“酒呑童子”を退治にやってきて、アイツの首をとっちまった。
…ひでぇもんさ。ヒトんちの子になぁ。
だが己も神の力を借りた武士じゃちょっくらマズイと思い、別の山に逃げることになった。
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