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雨が雪に変わる頃 5
2007.12.28 |Category …箱庭の君 短編1
ああ、そうか。
この着物に赤い染みがついてしまったから、気に入らないんだ。
「今度はもっと良い物をとってきますよ。絶対、気に入ると思います」
……でも。
小雪さんは意外とワガママでいらっしゃって、何をとってきても気に入ってくれないんですよ。
女性のワガママには魅力がありますが、それにしても度が過ぎると困りもの。
一体何が欲しいのかと聞いても、そっぽを向くばかりで……。
とうとうあまり口も利いてくれなくなりました。
「いらない。貴方の手から渡される物なんか、何一ついらない」
放り投げられた宝石や着物ばかりがたまってゆく。
彼女に見向いてもらえない宝物は、もはや宝物ではなくて、ただのガラクタに過ぎません。
▽つづきはこちら
それでも私はせっせと盗ってきました。
小雪さんに喜んでもらいたいがために。
また笑いかけてもらいたいがばっかりに。
小雪さんの心をわかろうともせずに……
「いらない。貴方の汚れた手に触れた物なんかいらない」
「いらない。貴方は私を壊すだけだから……」
「いらない。貴方なんかいらない」
私は…………黙るしかありませんでした。
私が何をしたというのでしょう?
ただ、元気になってもらいたいだけなのに。
お願いです。私を嫌わないで下さい。
それから……小雪さんは口数が減りました。
私を遠ざけることも物を私に投げ付けることもなくなりました。
私を許して下さったワケじゃあ、ありません。残念ながら。
小雪さんはその元気すらなくなってしまったのです。
その日も冷たい雨でした。
久しぶりに彼女は私に優しい声で話しかけてきました。