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雨が雪に変わる頃 3
2007.12.28 |Category …箱庭の君 短編1
けど、私は文句を言いつつ、結局全部いただきました。
それで気づいたのですけど、女性は何も口にしていませんでした。
雪をつまんで口に入れるだけ……。
……そうです。
あの一杯は彼女が食べるための物だったのです。
私などという余計な者を拾ってしまったために、彼女の分がなくなってしまったんですよ。
でも。
そんなの、私には関係ないでしょう?
だって、彼女が勝手にやったことです。
私は頼んでもいないんですよ?
ねっ?
そう思って、私はまた眠りました。
朝になって目を覚まし、ぎょっとなりました。
彼女が私の腹の当たりで丸まって寝ていたからです。
▽つづきはこちら
なんと、私の腹を枕に…………といいますか、それ以前に驚く必要性が他にあった。
私は妖力の消耗により、姿が元に戻ってしまっていたのです。
……私は、実は大きな大きな白銀の虎なんですよ。
彼女は私の……その……つまり“中身入りの毛皮”を布団にして眠っているんです。
とんでもない方ですよ、まったく…。
きっと私がまだ人の姿をしている内にきたのでしょうから、このままってワケにもいきませんよねぇ?
目覚めたら大騒ぎになっちゃいます。
だからあわててまた人に化けました。
そして彼女が目覚めました。
「おや、今日は虎さんではないのですね? 温かかったのに」
私は驚きましたよ。
だって、私の正体、わかっちゃってたんですよ?
見抜いていたワケじゃなかったんです。
彼女に特別な力はなかったから。
そうでなくて、私が獣に戻った姿を見ていて、それで布団にしたんです。
温かいだろうと思ったらしいです。
私は呆れましたね。ホントに。
彼女は正月を誰かと過ごすのは初めてだと嬉しそうに笑いました。
「明けまして、おめでとうございます」
つい…私も習ってそれに従いました。
私は傷が癒えるまで、この家にやっかいになることにしました。
行くあても特にありませんでしたしね。
彼女は「小雪」という名で、とても……愛らしい女性でした。
雪のように、真っ白い心の持ち主で。
それが災いするなんて、このときの私にはまったく思いもよらず……。