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箱庭の君番外 雨が雪に変わる頃1
2007.12.28 |Category …箱庭の君 短編1
「雨は…嫌いなんですよ。特に…今日みたいな冷たい雨は」
「ホラ…、雨が……………雪に変わりましたよ…」
「ねぇ」
私は命あるモノを殺めることを、何とも思っていませんでした。
…そう、ほんの少しも。
私はただ強かった。
ただ凶暴だった。
私は弱き者をいたぶるのが好きでした。
私に命乞いをする者に無慈悲な行いを……致しました。
生きたまま臓腑(ぞうふ)を引きずり出し、目の前で食い散らしました。
そして、言うのです。
「お前も喰うか?」
▽つづきはこちら
けれど、そんな私にも終焉(しゅうえん)と思われるときが来たのです。
嵜国きっての退魔師・五輪刀(ごりんがたな)に“白銀の虎を打ち取れ”。
そう、命(めい)が下ったのです。
けれど私は鼻にかけていませんでした。
「五輪刀だと? たかが人間のクセして、たいそうな名をつけやがったな」
その高慢さが命取りだったんですね。
彼らは人間でしたが、なかなかの手だれだったのです。
もう少し私が注意を払っていれば、問題なかったのかもしれません。
でも、彼らは自らの命を文字どおり投げ捨てて刃向かってきました。
愚かしく。
ただ愚かしく。
仲間をいく人失おうと、進むのをやめませんでした。
私は油断していたので足元をすくわれたのも確かですが、その覚悟におののきました。
そして、最後の一人を残して私は退散したのです。
きっとあの傷では残りの一人も生きてはいなかったでしょう。
生き残ったのは私でしたが、私は負けたのです。
いつ生まれたのかは覚えがありませんでしたが、初めて敗走したのは確かでした。
その日は、雨が冷たい師走の大晦日(おおみそか)。
大量の血を流して、私はフラフラ。
…いえ。
それは血のせいだけではなかったと思います。
失意していたんです。