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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 67-13

鎮「誰かの代わりになってだなんて、そんなとってつけたような優しさは願い下げだ」
アン「……!」
鎮「それにアンに慰めて欲しいなんて思ってないしな」
アン「それは……私が汚いとか言ったから……?」
  『どうしよう、謝らないと……』
鎮「いや。そうではない。思ってもいないのに上辺だけ言われても相手をするこっちが疲れるだけだ。そうでなくともリクとクロエがチョロンチョロンと周りをうろついてウザイのに」
リク「……えー、ショックー。そんな風に思っていたのー?」
鎮「今までの態度で気づかないのが俺もショックだ」
リク「うわ、ヒド」
 
 笑って頭をかく。
 すでに思いが通じたと思うからこその余裕だ。
 ほんの一時間前くらいなら、まともに受けて凹んでいるところである。
 

▽つづきはこちら

アン「………………」
  『思ってもいないのに上辺だけ……先生は……私を優しいとは思ってないんだ。私だって今は可哀想だって思ってあげているのに……』
 
 リクが軽く流す一方で、良い人、優しい人というのが彼女を形成するアイデンティティーだと思っていたアンに鎮の言葉は少し荷が重かったようだ。
 衝撃を受けて心が痛みに揺らいだ。
 リクが鎮に優しくするのが気に食わないから、それならば自分が代わろうという彼女の考え方を見透かされてのことだが、本人はそれすら気がつけないでいる。
 もう彼女の目には恋人という存在以外は不要なものでしかないのだ。
 彼女の気遣いは全て彼氏に費やされるものであって、他の人に少しでも向けるのは惜しいのである。
 
鎮「でももうそのことについてもわざわざ気にかける姿勢をとらずともよい。1ヶ月も過ぎたし、リクやクロエがずいぶんと慰めてくれたでな。もう平気。だからリクもアンにお返ししよ?」
アン「……先生は大人だから平気なんだよね……」
鎮「……そうだ」
アン「よかった」
 
 ようやくアンが微笑んでくれたので、鎮はほっと胸をなで下ろした。
 ゴタゴタに巻き込まれるのはもうゴメンである。
 しかも実際には何も関係がないのに、だ。
 
アン「大人だから年下のリク君にも興味ないんだよね?」
鎮「……いや……大人だからじゃなくて、男だからですけど……」
 
 ちょっと待て。
 いつまで続くのかこの誤解!?
 確かめるように尋ねられて、鎮は本気で度肝を抜かれた。
 しばらく考えて悩んだが、この誤解の連鎖を解くために仕方なく額当てを外す。
 あれだけ嫌がっていたのにと側でリクが目を丸めているが、不名誉な噂を立てられては敵わないからだ。
 
リク「先生!」
鎮「……仕方あるまい。また飛び降りでもされたら、俺はその方が怖いわ」
リク「……確かに……」
 
 リクがどんなにしても顔を見せてもらえなかったのに。
 アンはすごい。
 太陽と北風という物語なら、相手に無理強いをするアンは間違いなく北風だ。
 しかし北風の力で強引に仮面を剥ぎ取ったのである。
 散々苦労した挙句、事故で素顔を見てしまっただけのリクはちょっとうらやましかった。
 
鎮「これでわかったろう。年上美女なんかではないと。ただのどこにでもいる小男だわ。どこからそのようなトンチキな噂が発生したか知れぬが、信ずる方も信ずる方ぞ」
 
 まったくと息をついてから、再び額当てを装着する。
 
リク『あの顔見せてどこにでもいる小男って言っても説得力ない気がするんだけど……』
 
 あまりじっと観察するわけにもいかなかったが、どうしても目がいく。
 誰も無機質な仮面の下から、少年とも少女ともつかない顔が現れるとは想像していないだろう。
 予想通り、アンはぽかんと口を開けて、アレがいつも見ている先生だと理解するまでに時間を要しているようだ。
 当たり前といえばそれまでだが、あの幻想的な素顔で声だけいつも通りの「ヒサメ先生」だから調子が狂ってしまう。
 
リク「思ったんだけど……」
鎮「んー?」
リク「先生って……ナツメ?」
鎮「………………」 ぎくっ。
リク「ねぇ、そうだよね?」
鎮「……さっ。もう帰りっ」
 
 立ち上がって服についた埃を払う仕草をする。
 
リク「あ。ごまかした」
鎮「拙者は急がしいのでござる。幼稚な恋人ゴッコに付き合わされて偉い目におうたわ」
アン「……ハッ」
 
 呆けていたアンが現実に戻ってきた。
 
アン「あの……スミマセン……でした」
鎮「ホント。お騒がせでござ……あ。ゴザルはダメだからえっと……」
アン「いいです、ゴザルでもセッシャでも」
 
 リクと関係ないならそれでいいのだ。
 
鎮「そ、そか。一応、教官だからな。ちゃんとしないと威厳がな? ふふっ。威厳が……」
 
 もじくさもじくさ、そわそわ。
 
リク「えっ!? 教官だからって……えええ!? 誰もそんなしゃべり方してないって!! そして威厳の威の字もないよ!??」
鎮「何を言う。皆、そうやってしゃべっておろうが。だから鎮も偉そうにござるってゆーでござる。だって教官だから!」
 
胸を張ってのけ反りっ。
 
 
 鎮から見た教官たち……
ニケ「拙者、ニケちゃんでござる。可愛い姿して実はスーパージジィでござる」
ヴァルト「拙者はヴァルトでござる。ナーダにいつもイジメられて涙の毎日でござる。男はつらいよ」
ナーダ「拙者、ナーダ。鬼嫁でござる。逆らう奴には容赦せんでござる。例えばヴァルトとかヴァルトとか。血祭り血祭りワッショイワッショイ♪」
ミハイル「拙者はミハイルでござる。アル中でござる。猫大好きー。猫持ってこーい。猫おかわりー」
アゴ「拙者、ローングローングアゴーンでござる。アゴつかみ放題。寄っといでー♪」
 
 
鎮「……ま、ざっとこんなモンでござるな。フフッ」
リク「嘘だよ!!」 ガビッ!?
  『しかも好き放題台詞作っているし!』
 
 どうやら彼の中で同僚たちはあんなカンジらしい。
 当人たちが聞いたら、どうなることか……
 
リク「先生、それ……他に言わない方がいいよ? いや、マジで……」 ゲンナリ……
鎮「?」
リク「……や……“?”じゃなくて……」
  『ああっ、説明通じなさそー!!』
 
 もう無理だから放置しておこう。リクはそう決めた。

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